第19話:章の最後
俺はようやく、海へ出た。
暗黒の深海を抜け、光の届く蒼へ。
そして──見上げれば、そこには 空 があった。
この世界に来て、初めて見る空だった。
ゆっくり揺れる水面越しでも分かる、あの淡い光。
朝日が差し込み、黄金色の筋が海に落ちては、ゆらゆら揺れている。
「着いたぞ。後はあそこに行けば地上だ。」
アリシアが指した先──
水面の向こうに、淡いベージュ色が広がっている。
砂だ。砂浜だ。
あれが……地上への出口か。
「ありがとう、ここまで運んできてくれて。」
俺がそう言うと、アリシアは小さく鼻を鳴らした。
「礼を言うのはこっちだ。
お前が来なければ、私達はサメに殺されていた。」
真っ直ぐな目で俺を見る。
その視線には、恐怖も、警戒も、敵意もない。
ただ、深海で共に戦った仲間としての、真摯な眼差しだけがあった。
……なんか照れるんだけど。
「まぁ、でもアルくんが来なかったら、そもそもサメ達も来なかったけどね!」
ルナが明るく笑いながら俺の横にくる。
ぐはっ……それは言うな、痛い所を突きすぎる。
「うっ……まぁ……それは……言わないでほしいな……」
「えへへ、ごめんって!
でもホントに、助けてくれてありがとう。」
ルナはにこっと笑った。
後ろではレッドたちも、みんな静かに頷いている。
深海で出会った仲間たち。
戦って、喰って、喰われて、また戦って。
気づけば別れを惜しむほどの絆ができていた。
小魚たちが俺の横を泳ぎ去る。
朝日を反射して、鱗は金色や銀色に輝いた。
オレンジ色に透けるクラゲ。
縞模様の熱帯魚。
鮮やかな青の群れが一斉に方向転換し、水面下に大きな“道”を描く。
深海とは違う。
色がある、光がある、息づいている海だ。
水温が優しい。
波が柔らかい。
世界が広い。
……ああ。
ようやく、“海の底”から自由になったんだな。
俺は、ゆっくりと水面へ近づいていった。
そこには、新しい世界が待っている。
――地上だ。
――異世界だ。
――俺の冒険だ。
「行ってこい、アルセリオン」
アリシアの声が背中を押す。
そして人型になり、俺は海から大地へと足を踏みしめた。
それはまるで神話の再演だった。
太古、すべての生命が海から生まれたように──俺もまた海を出て大地へ上がる。
太陽光がギンギンに突き刺さる。
海の底では絶対に届かなかった、本物の“光”だ。
胸の奥から熱が込み上がる。
「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」」
反射的に叫んだ──いや、声が重なった?
「……ん?」
俺はゆっくり後ろを振り向いた。
そこにいたのは──
俺と同じく180cmを超える、全身真っ黒のバケモノ。
触手も、角も、体表の紋様も、黒い霧のようなエネルギーも。
見間違いようがない。
「……ヴァルセリオン?!」
「へへっ、生きてましたよ兄貴!」
思わず声が裏返った。
「な、なんで生きてんだよ!?あの時吹き飛ばされたろ!?」
「へへ、あいつに思いっきりぶっ飛ばされた時っすよ……その衝撃で、知らねぇデケェ海の蛇が急に現れて、地獄みたいなバトルが始まって……」
「蛇と戦ってたのかよ!!」
「はい!そしたら偶然……兄貴のいる方向に流されて来て……気づいたらここに!」
なんだそれ。
いやほんとなんだそれ。
でも──
「……生きててよかった」
「兄貴……!俺も兄貴が地上で一人かと思うと泣きそうでした!」
抱きついてくるのを軽く回避した。とりあえず、嬉しいけど暑苦しい。
つーかこいつちゃっかりと進化している、異常存在から特異存在に。ま、いいか。
「お前はこれからどうするんだ?」
地上の光を浴びながら、俺は隣に立つヴァルセリオンに問いかけた。
潮と太陽の匂いが混ざる、不思議な空気だった。深海には存在しない“温かさ”が、胸の奥にまで染み込んでくる。
「どうするって?」
ヴァルセリオンは首を傾げた。黒い触手の影が砂に落ちる。
「いや、だから……これからは自由に生きていいってことだ。俺はこの世界を楽しむつもりだし、好き勝手に冒険して、色んな情報を食って、色んな景色を見たい。
……俺の野望に、お前まで巻き込むのは悪いだろ?」
本心だった。
深海での戦いは、ただの生存だった。しかし、地上は違う。
ここは“目的”を持って歩ける世界だ。俺一人でも、どうにかなる──そう思っていた。
だが。
「へへ、兄貴」
ヴァルセリオンはにかっと笑った。
人型のくせに、なんか尻尾があるかのように腰がフリフリ揺れてる。黒い化け物ボディでやるな、怖いけど。
「俺はよ……兄貴についていくって決めてんだ。
深海で拾ってくれて、一緒に飯食って、一緒に戦って…兄貴の背中、初めて“かっけぇ”って思えたんす!
だから──俺は一生兄貴について行きやす!!」
その言葉は、真正面からぶつけられた。
……なんだよそれ。
深海での“家族”なんて、俺は意識したことなかったのに。
「おいおい……勝手に決めんなよ。俺は優しくねぇぞ?」
「知ってますよぉ!兄貴の腹の中、何回見てきたと思ってんですか!!」
「それは……まぁ、確かに」
思わず笑ってしまう。
不思議だ。深海では死んだような感情しかなかったのに、今は“楽しい”と思える。
太陽が照りつける中、俺たち二体の化け物は砂浜の上に立っていた。
海という牢獄を抜け、
ようやく自由になった世界で──
俺とヴァルセリオンの冒険が、ここから始まる。
♢♢♢
個体名:アルセリオン
種族:過度級怪物
特性:触手・再生・存在進化
擬態『犬、ギガドロン、タコ、チンアナゴ・魚、カジキ、蛇』
固有能力:『情報の秘書』『新情報』『存在進化』『情報因子』『数値化』『情報同化』
スキル:『水中感知』『攻撃速度向上』『反応速度向上』『発光』『思念伝達』『墨吐き』『鮫毒噛み』
『超音波』『光学迷彩』『圧力耐性』『毒液生成』
『振動感知』『再生加速』『鱗硬化』『群体操作』
『電撃放出』『破壊圧縮』『深界冷絶』
『浪震咆哮』『破砕顎』
数値化パラメーター:15400
♢♢♢
個体名:ヴァルセリオン
種族:異常存在
特性:擬態・再生・存在進化
『擬態:ウツボ・イタチザメ・イカ・鮫・猫・海龍』
固有能力
『混沌喰者:対象の全て喰った場合、スキルを獲得、生きている相手ならば源エネルギーのみ奪う事が可能』
『環境適応:環境に適応しやすくなる』
スキル:『瞬足』『睨み』『柔軟性』『威嚇』『吸盤掌握』『分泌麻痺液』『光学迷彩』『水圧増強』
『水泡操縦』『音波索敵』『牙強化』『尾鞭攻撃』
『電気蓄積』『触手感覚増幅』『毒霧放射』『体液硬化』『分裂擬態』『死霊召喚』『浪震咆哮』『 無相游泳』
数値化:12000




