プロローグ
太古の時代
それは文明すら誕生していない、**“世界がまだ未定義だった頃”**の記憶。
大気は重く、空はまだ“青く”なっておらず、
光と闇の区別すらあいまいだった。
生物という概念は存在せず、存在とは“現象”だった。
大地は沈黙しながらも鼓動し、
山は言葉もなく“聳え”、
海はただ、無音のまま深く深く息づいていた。
世界はふたつに割れていた──
まるで最初から「境界」を意識していたかのように。
その瞬間だった。
大陸と海の狭間、時空の裂け目から**『何か』**が滴り落ちた。
それは意志を持たない粒子でもなく、
ただの粘膜や血液でもない。
“概念”そのものを含んだ、生きた情報の断片。
形すら曖昧な、**『細胞』**という名の100個の種子。それらは静かに、だが確実に──世界へと溶け込んでいった。
たった1つの細胞が、深海の底へと沈んでいった。
光の届かない奈落。
圧力に砕かれ、寒さに凍え、
流れすらない沈黙の闇の中。
そこで、細胞はただ「在り続けた」。
時間の感覚はとうに失われた。
数百年か、あるいは数千年か。
世界がいくつも変わり、人々が何を築き壊そうとも、
その細胞だけは、“変わることを拒絶し続けた”。
だが、変化は必然だった。
魂が──降りてきた。
それがこの世界のものではないことは明らかだった。
漂流するようにして異界から辿り着いた魂。
無垢で、強く、どこか**“欠けている”**魂。
それは何者かの転生か、それとも捨てられた残滓か
理由は分からない。ただ一つ分かっていたことがある。
その魂は、「選んだ」のだ。
永遠の静寂にいた“白い細胞”に触れ、
その中に「宿ること」を選んだ。
そして始まる、進化の奔流。
細胞に魂が宿った瞬間、世界の摂理が音を立てて歪んだ。
それはもはやただの生物ではない。
肉体を持つ意思。
意思を持つ本能。
光も届かぬ海の底で、“在ること”の意味が芽吹いた。
白い細胞は、全てを取り込み、
やがて、意志を持つ“存在”へと変貌する。
その名を、
アルセリオン
後に幾千の神話と伝承に名を刻む、
“始まりにして終わりを知る者”。
これは、神にも等しき存在が、ただの細胞から始まった
一つの“真実の神話”である。