表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルセリオンの神話『聖魔ルチア』  作者: エスケー
ルチアとアルセリオンの出会い編
2/14

第1話:ルチアとアルセリオン



「君、名前はなんて言うの?」


 私の名前は『ルチア・クロウフォード』。小さな村で平凡に過ごしてきた美少女――そんな私が、白い球体を手に取ったその瞬間だった。


 突如、アルセリオンの無数の触手が伸び、私の口元へと迫ってくる。思わず身をよじるが、どうすることもできず――。


 ――ぞぷっ。


「……え?」


 球体の表面から、黒い管のような触手が無数に生えてきた。

 ギチッ、ギチッ、ギチチチ……

 骨を叩くような不快な音を立てながら、異様な蠢きは増幅し、次の瞬間――

 私の口へと侵入してきた。


「――――ッ!?!?!?」


 声にならない悲鳴が漏れる。


 脳内に、誰かの声が響いた。


 ――――■■■、■■■。


 聞き取れない。

 人の声とも、獣とも、神とも違う、“何か”の言語。

 理解できないはずのそれが、私の精神に直接書き換えられていく。


【受け入レロ 接続ヲ開始スル】


 触手は胃から、心臓から、神経から、魂にまで接続していく。


 【融合率 上昇――3%……9%……10%……】


 白い球体は私の中に入り込むと、じわりと身体の奥へ沈んでいき、やがて完全に消えちゃった。


 えっ……!? な、なにこれ……?

 全身に変な感じが広がる。熱くも冷たくもなく、重くも軽くもなくて……うーん、なんか変な感じ。


 こ、これは!大事件だ!!!!






「お母さん! お母さん!! さっきね、白い球体が海に落ちてて、拾ったら、私の体の中に入ってきて、そしたらね、あのね、消えちゃったの!!」


 私は興奮気味に報告した。あれは絶対お化けだ!!間違いない!!


「何言ってるのよ、バカ娘。そんなことよりお父さんのお仕事は? 終わったの?」


 お母さんは、いつもの調子で私の話をまるで信じてくれない。

 えぇ〜!? こんなにびっくりな体験したのに!?私はぷくっと頬をふくらませた。


「あのね! 本当にいたの!! 私、見たもん! 私の体の中に入ってきたの!!」

「食べたの間違いじゃない?」

「ち、違うもん! 私は子どもじゃないんだから、その辺のものなんでも口に入れないよ!!」

「はぁ〜……だったら、うんことかしたら出るんじゃない?」


 お母さんの言葉に、私は思わず固まった。


「……そ、そんなわけないでしょ!!」


 もう、信じられない。

 なんで信じてくれないの。こんなに愛娘が、必死に訴えてるのに。


 バカお母さん。お母さんバカ。

 うんことか言っちゃうし、下品な言葉使ってるしさ……。


 あ、あれ……ちんちんみたいな葉っぱ……!


 思わず声に出してしまった私。

 えへへ、変な形……でも、面白いかも!


「ルチア!! ルチア!!」


 お父さんの声が響いた。お父さんは畑仕事の番人で、いつも土まみれになりながら畑を見守っているイメージがある。


 ちなみに、私たちの家系はみんな白髪だ。母・シルシアは白髪を流れるように垂らし、四十代とは思えない可愛さを誇っている。


 私もまた、その血を色濃く受け継いでいた。

 白銀と淡いピンクが溶け合う髪、透き通る青い瞳。その姿は、「村一番の美少女」と呼ばれるにふさわしい――!!


「おぉ、ルチア、来てくれたのか。今日も可愛いやないか」


 ほらね、お父さんは私のことをいつもこんなふうに褒めてくれるんだもん。

 頭をなでなでしてくれるし……やっぱり私って、可愛いんだよね!


「ルチア、手伝いに来てくれたのか?」

「お母さんがやれって言うから来た!」

「おぉ、えらいな!! 流石だな、将来有望なお嫁さんだ。誰にもやるつもりはないけどな、アッハッハ!!」


 お父さんに渡されたりんご。これをいつも倉庫の裏に持っていくのが、私のお仕事だ。

 りんご1個だけでも結構重いのに、2個なんて持てないから、1個ずつ運ぶ。


 よいっしょ、と運び、またひとつ運ぶ。それを繰り返すだけの単純作業だ。


 ふぅ〜、やっと倉庫に運び終わった。


 一息ついて、肩の力を抜きながら倉庫の前に座り込むと、柔らかな風が頬をなでていった。

 鳥のさえずりや遠くの川のせせらぎが、

 私に「よく頑張ったね」と囁いてくるみたいだった。


 そのとき、ふと肩のあたりに違和感を感じる。何かが、ちょこんと乗っている――見ると、あの白い球体が、生き物のようにふわりと私の肩に現れていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ