第17話:進化の果てに
うぅん……目を覚ました。
意識が浮上すると同時に、全身を満たす“万能感”が脳を貫いた。
なんだこれ。
めっちゃ……いい。
何もかもが視える。
水流の動き、サメ達の残留情報、アリシア達の体温、海圧の揺れ──
世界そのものがスキャンデータみたいに脳に流れ込んでくる。
「……は?」
自分の声すら、前よりクリアだった。
「あ、起きた!!」
叫んだのはルナだ。
目を丸くして、本気で驚いた顔で俺の方へ泳いでくる。
「よかった……ほんとによかった……! 全然起きないから……っ!」
ルナが胸に飛び込む勢いで抱きつき、俺は少し戸惑った。抱きつかれた感覚も、以前とは違う。
“触れた”という物理的な情報だけじゃない。
心拍、呼吸、肌温度、その全部のデータが同時に流れ込んでくる。すげぇ、俺……こんなに変わったのか。
「大丈夫、ルナ。もう平気だ」
俺はそっとルナを抱き返した。
あぁ、この万能感、やばいな。
強くなりすぎて、逆に笑えるレベルだ。
「むしろ……最高の気分だよ」
ルナは涙目のまま笑った。
「なんかね、起きた瞬間から雰囲気違ったの。すごく強い……っていうか、“大きい”感じ」
「まぁ、進化したんでね」
俺が軽口を叩くと、後ろから別の声がした。
「やっと復活か、アルセリオンくん」
振り返るとアリシアと他の仲間たちが揃っていた。
みんな、それぞれ傷だらけなのに、生存を喜ぶように笑っている。
そして俺はようやく、自分の進化を実感した。
圧倒的な情報量と、力と、視界。
全てが“次元違い”だ。
戦闘は既に終わっていた、俺の身長は180cmを超えている。白いの化け物だ。
改めてステータスを確認してみる
♢♢♢
個体名:アルセリオン
種族:過度級怪物
特性:触手・再生・存在進化
擬態『犬、ギガドロン、タコ、チンアナゴ・魚、カジキ、蛇』
固有能力:『情報の秘書』『新情報』『存在進化』『情報因子』『数値化』『情報同化』
スキル:『水中感知』『攻撃速度向上』『反応速度向上』『発光』『思念伝達』『墨吐き』『鮫毒噛み』
『超音波』『光学迷彩』『圧力耐性』『毒液生成』
『振動感知』『再生加速』『鱗硬化』『群体操作』
『電撃放出』『破壊圧縮』『深界冷絶』
『浪震咆哮』『破砕顎』
数値化パラメーター:15400
♢♢♢
以上だ。
圧巻だった。
身体を起こすだけで海が震えた気すらする。
めっちゃ強くなっている。
いや、“強くなった”なんて曖昧なものじゃない。
正直、今の俺なら──
メガドロンだろうが、あの化け物だろうが、余裕で屠れる。
そんな確信が、揺るぎなくあった。
それで、お前はこれからどうするつもりだ」
アリシアの問いに、俺はしばらく黙り込んだ。
海は静かだった。
さっきまで嵐のように荒れていたのが嘘みたいだ。
サメたちも、メガドロンも、もういない。
ただ深海特有の冷たい暗闇と、ゆっくりと舞い上がる砂煙だけが残っている。
「……そうだな。もうこの辺りの情報は喰い尽くした。次の進化のためには、別の海に行くのが手っ取り早い」
俺はそう答えた。
だが――問題がある。
「でもここって深海だろ?海流は全部“下”だ。浮上流もないし、上層に行く道もない。言うなら袋小路だ。
このままじゃ出られねぇ」
そう、ここは深界と呼ばれる海溝の最奥部。
俺たちがここに辿り着いたのは、あの海の王たちの縄張りを追ってきた結果であって、意図したものじゃない。
アリシアは腕を組んだまま、小さくため息を漏らした。
「出る道なら知っている……地上に」
「え?!まじ!地上!!やっぱ進路変更だ。地上に行こう」
地上があるならば行きたい!そしてこの世界の文明とか、エルフとか!異世界を楽しみたい!海で終わりたくいのだ。
「ふん……」
アリシアはどこか迷うような、言い淀むような目をしていた。
普段の堂々としたイルカの女王とは違う、微妙な揺らぎ。
「な、なんだ?」
俺が尋ねると、アリシアはゆっくりと言葉を選んだ。
「いや、お前を信用していない訳ではない。むしろ逆だ。お前が“味方”ならば、これほど心強い存在はいない。だが……」
そこで一度、深海の暗がりへ目を向ける。
「ここから上へ続く海域は穏やかだ。上層は太陽が差し、世界が広がっている。
私達イルカはその海の調停者だ。
必要以上に捕食者が増えぬよう、均衡が崩れぬよう……
だからこそ、この深海から上へ続く“海流の門”を見張り、封じている。
ここに棲む危険なものたちが、うかつに地上へ出ぬように。」
なるほど、だからイルカたちはここにいたのか。
ただ強いだけの魔物じゃなく、“役割”を持っていたわけだ。
「で、でも俺は危険じゃねえよ。ほら、ほら俺、仲良しだし?」
言ってて自分でも説得力に欠けると思った。
つい数時間前まで俺は海の王たちを片っ端から食っていた怪物だ。
アリシアは静かに首を振った。
「お前が危険かどうかではない。
“行く先で何を起こすか分からない”……その一点だ。」
……ぐうの音も出ない。
そりゃそうだ、俺自身、自分の限界がどこかすら分からない。
「だが、行きたいのだろう?地上に」
アリシアの声は、どこか観念したようだった。
「ああ、行きたい!
異世界だぞ?文明!エルフ!人間!冒険!
深海で終わりたくねぇ!!」
叫ぶように言うと、アリシアは小さくため息をつく。
「……はぁ。まったく、お前という存在は……。
いいだろう、地上へ続く“海流の門”へ案内しよう。」
俺は即答した。
アリシアは俺の顔をじっと見つめ、数秒だけ沈黙。
「……信じる。信じるが……もし破れば、私はお前を殺す。」
背筋に氷が走る。冗談じゃない。
でもその目は本気だった。
「絶対に大丈夫だって! ほら、俺いま優しいモードだから!」
「優しいモードとは……まぁいい。ついてこい。
地上へ続く“上昇海流の門”は、この深海のさらに北――《蒼潮峡》の奥だ。」
そう言ってアリシアは踵を返し、静かな光をまといながら泳ぎ出す。
それから、イルカ達に案内され、俺は地上へと向かったのだった。
あれ?ヴァルセリオンくんはどこに…。




