第13話:平和
俺は今、ただ“遊んでいた”。
イルカ達と出会って三日が過ぎ、気がつけば妙に仲良くなっていた。
種族?立場?そんなの関係なく、共に泳いでいるうちに何となく性格も見えてきた。
レッド(赤いイルカ)
情熱家で、仲間思い。
そして——何より、好戦的。
「オラオラオラァ!!」
今日もヴァルセリオンと海中で暴れていた。
純粋な実力はヴァルセリオンの方が少し上だが、レッドの勢いは見ていて飽きない。
彼の固有能力は**『炎熱』**。
“どこまでも熱くなれる”という意味らしいが、その説明の通り、体表から溢れ出す炎は海中でも消えない。
水の中で揺らぐ赤い光は、美しくもあり危険でもある。
ただし使い方は雑。能力の扱いはまだまだ荒削りだ。
だが——ヴァルセリオンも同じくらい脳筋なので、相性は妙に良い。
カイル(青のイルカ)
冷静沈着。
言葉数は少ないが、警戒心が強いのか一歩引いた位置から周囲を観察している。
今も目を閉じて静かに海中を漂っていた。
「寝てるのか?」
そう思ってちょっかいを出そうとした瞬間、殺気にも近い鋭い目つきで睨まれたことがある。
あれ以来、俺はカイルにいたずらするのはやめた。
確実に——起きている。
ピンクのイルカ『ルナ』
多分、アイドル的な立ち位置、可愛く天真爛漫だ。
キュートでラブだ、いつも俺の周りをぐるぐる回っては勝手にキャッキャしている。正直言うと鬱陶しい……が、まぁ悪気が全く無いのも分かるから強くは言えない。
「アルくん〜!見て見て〜♡ 今日のわたし、いつもよりツヤがいいでしょ〜?」
そう言いながら俺の顔の目の前をひゅんひゅん横切る。
こいつにだけは海流も重力も関係ないのか、と思えるほど自由奔放。
固有能力は『魅波』という謎能力で、簡単に言うと「周囲の生物をほんのり幸せな気分にする波動」を出せるらしい。
ただ、控えめに言って戦闘には全く向いていない。
「ルナ、遊ぶならカイルの邪魔すんなよ」
「え〜?だってカイルくん、遊んでくれないんだもん〜」
遠くで青イルカのカイルが深い溜息をついたのが聞こえた。……うん、まぁ、気持ちはわかる。
そして最後に緑のイルカ『エミナ』
この子がまた、他と違ってやたら落ち着いている。
「……アルセリオン、海流が変わりました。少し東側が不穏です」
声量は小さいが、よく周囲を見ているタイプだ。
固有能力は『再生潮』で、微弱ながら周囲の傷を癒す潮を生み出すことができる。
イルカ達の中だと唯一のヒーラーだ。
正直、戦闘しか能がない俺と黒にはありがたい存在。
そんなこんなで、変な濃いメンツと過ごして三日。
最初は殺し合いだったのに、気づけば一緒に海を泳ぎ、遊び、時折訓練じみたこともしたりして……
思ってたより、悪くない。
ただ、海は相変わらず静かじゃない。
最後にリーダーである白と黒のイルカ、アリシア。
彼女はリーダーシップが高い、気を休めることなく常に警戒網を貼っている。
その泳ぎには一切の無駄がなく、視線は常に海の奥深くへ向いている。
仲間がふざけていようが、俺とヴァルセリオンがくだらない話をしていようが、アリシアだけは片時も気を緩めていない。
「……潮の流れが変わった。南西の方角、何かが移動してる。」
唐突にそう告げられ、俺も思わず背筋が伸びた。
アリシアがこういう時、冗談ではない。三日でわかったが、彼女の“嫌な勘”はほぼ百発百中だ。
「もしかして……『奴ら』か?」
そう問うと、アリシアはゆっくり首を振った。
「違う。あいつらほど重くはない……ただ、普通でもない。生態系が一気に沈黙するような、そんな動きをしている。」
レッドとカイルが戦闘をやめ、ルナもぴたりと動きを止める。ヴァルセリオンもわずかに警戒色を帯びた。
「兄貴、どうせ来るなら全部まとめて来てほしいっすね……面倒くせぇ。」
「それは勘弁だな。胃もたれするわ。」
そう言いながらも、俺の胸の中に重い感覚が広がってる。
そんなこんなで数日が経過した。
海は穏やかで、波音も静かだった。けれど、アリシアだけはずっと気づいていた。張り詰めた警戒網を一度たりとも緩めなかった理由が、今ようやく理解できる。
「……来るぞ。」
その瞬間、海流が変わった。
水温が唐突に下がり、海が「沈黙」する。魚の影が消え、鼓膜が痛むほどの低い振動が遠くから響いてきた。
ルナが不安そうに震える。
レッドが炎を纏い、ヴァルセリオンが「へぇ……やっとかよ」と口角を上げる。
俺とアリシアはただ、海の闇の向こうを見つめていた。
深海の底から、影が浮上してくる。
あの巨体。あの圧力。あの“脅威”そのものの存在感。
前触れもなく、唐突に。
海の覇権を奪い返すために。
奴らは、やってきた。




