第11話:王都でご飯
「ルチア、ちょっと休憩しようか」
「はぁ〜い!」
お父さんの声に、私はぱっと顔を上げた。
市場の喧騒が少し落ち着いて、昼の鐘が鳴る。どうやら昼休みの時間らしい。
「お母さんが、お金を持たせてくれたからな。今日は――王都でご飯だ!!」
「えっ!?ほんと!?やったぁ!!」
思わず飛び跳ねる。
だって、王都でご飯なんて、まるで夢みたいだ。
「ルチア、そんなに喜ぶなって。……お父さんの財布が泣いちゃうぞ?」
「だって!だって!王都のご飯って、絶対美味しいもん!!」
お父さんは苦笑いしながら、荷物を片づける。
私の胸はもう、わくわくでいっぱいだった。
──だって、王都で食べるご飯だよ。
パンだって、スープだって、きっと村とは違う味がする。
「よし、行くぞ。市場の通りを抜けた先に、いい店があるんだ」
「うんっ!」
果物の香りがまだ残る通りを抜けて、私たちは王都の食堂街へ向かった。
王都の食堂街は――まるでお祭りみたいだった。
パン屋の香ばしい匂い、スープの湯気、焼き肉のジューッという音。
道の両側に並ぶ屋台からは人の笑い声とお金の音が絶えず響いている。
「わぁぁぁ……! すごい!!」
私は思わず目を輝かせた。
見たこともない料理が並んでる。果物で作ったパイ、肉を串に刺した焼き物、光るような飴細工まである。
「ルチア、そんなに口開けてるとハエ入るぞ」
「だって! だってお父さん、全部美味しそうなんだもん!!」
「わかるけどな……財布の中身が悲鳴上げてるんだよ」
お父さんは苦笑しながらも、露店のひとつで立ち止まった。
香ばしい匂いのする大鍋の中には、ぐつぐつ煮えた赤いスープ。
「すみません、二人前ください」
「はいよっ! 親子連れかい? 可愛い娘さんだねぇ!」
お店の人が笑顔で木皿にスープを注いでくれる。
トマトとお肉の匂いがふわっと漂って、もうお腹が鳴りそう。
「はい、ルチア。熱いから気をつけてな」
「いただきまーす!!」
スプーンを口に運んだ瞬間――。
「……おいしぃ〜!!!」
甘酸っぱくて、優しい味。
体の中まで温かくなる感じがした。
「王都の味、どうだ?」
「最高っ!! お母さんにも食べさせてあげたいな」
そう言うと、お父さんは少しだけ目を細めて、遠くの王城を見た。
白い塔が太陽の光を受けてきらめいている。
「……ルチア。いつか、お前にも“ここ”で生きる日が来るかもしれないな」
「えっ?」
お父さんの横顔は、なんだか少し寂しそうで。でも、誇らしげにも見えた。
私はスープをもう一口すくって、
「じゃあその時は、お父さんにも毎日ご飯作っ
てあげる!」
と、笑った。
ご飯を食べ終わると、私たちは王都の街を少し探索することにした。
お店がずらりと並んでいて、果物屋、雑貨屋、パン屋、そして──とっても豪華な服屋さんまであった。
「これなに!」
私は目を輝かせて店のショーウィンドウに張りついた。
そこには、金糸で刺繍されたドレスや、宝石が散りばめられた靴が飾られている。
「これは……高いブランドだな、俺じゃ買えないな、これは」
お父さんが苦笑いを浮かべながら言う。
「え〜! いいじゃんこれ! ほら、お姫様みたいだよ!」
私はスカートをつまむ仕草をしながら、鏡越しの自分を想像した。
「ルチアには似合うけどなぁ……お値段が“王族向け”だ」
「王族向け……?」
お父さんが指差した値札を見ると──『煌星のドレス 一着480,0000円』
「ひぇぇぇ!?!? た、高すぎるよ!? 果物、何個売ったら買えるの!?」
「果物じゃ一生分かもな」
お父さんが笑って頭を撫でた。
「あ。あれも見たい!」
私は駆け出すように歩き出した。
王都の街は人であふれていて、声がぶつかり合い、屋台の呼び声や馬車の音が混ざる。
興奮で胸がいっぱいになり、目の前の光景に夢中になる。
煌めく看板、色とりどりの旗、金銀の装飾……すべてがキラキラして見えた。
でも、気づかなかった。
この街には、優しい人もいれば、悪意を持つ人もいることを。
まだ純粋で、知らない世界に足を踏み入れたばかりの私は、そんなことに思い至らなかった
魔の手が、私のすぐそばまで伸びているなんて──夢にも思っていなかった。
「ひゃあっ?!」
気づいた時にはもう遅かった。背中に冷たい布があてられ、鼻をつく匂いがした。
視界がぐにゃりと歪んで、足元が崩れるように意識が遠のいていく。




