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アルセリオンの神話『聖魔ルチア』  作者: エスケー
ルチアとアルセリオンの出会い編
10/14

第9話:商人の顔

 「すごい!!これが王都か!!!」


 目の前に広がる光景に、私は思わず声を上げた。

 広い通りには色とりどりの店が並び、果物、宝石、布、香辛料……見たこともないものが山ほど並んでる。

 道を行き交う人たちは笑っていて、商人の声が飛び交っている。


「おいおい、安いよ! 今日だけの特価だ!」

「お嬢ちゃん、見てっておくれ! 西の国から来た香水だよ!」


 鼻をくすぐる甘い匂い、香ばしい焼き菓子の香り、遠くで響く馬車の音。

 全部がキラキラして、胸がドキドキしてくる。


「ルチア、あんまりはしゃぐなよ? 迷子になるぞ」

「う、うん……でも! すごいよ! お父さん、すごいね! 本当に王都だね!!」


 お父さんが笑う。

「ははっ、そうだろ。お前に見せたかったんだ、王都の街並みを」


 私は頷きながら、目を輝かせてあっちこっち見回す。


「ねぇ、お父さん! あれなに?! 金色の建物! それにあの白い服の人たち!!」

「あれは、聖教会のシスター様たちだよ。あそこに見えるのは中央大通り。王城まで一直線に続いてるんだ」


「わぁ〜……!」


 心の中で叫ぶ。

 ここが、絵本で見た世界だ。


「よぉ、アスタ!!」


 人混みの向こうから大きな声がした。

 見ると、体格のいい男の人が手を振ってこっちに向かってくる。肩には大きな荷物袋を担いでいて、笑うと歯がキラッと光った。


「おぉ、ガルフィン!」

 お父さんの顔がぱっと明るくなる。どうやら知り合いらしい。


「お前、王都に来るの久しぶりだろ? いやぁ〜元気そうで何よりだ!」

「はは、まぁな。久々に仕事がてら娘を連れてきたんだよ」


「へぇ、娘?」


 そう言ってガルフィンさんは私の方を見て、しゃがみ込むようにして目線を合わせてきた。

「おぉ、めっちゃかわええやん。名前なんて言う?」


「え、えっと……ルチアです」

「ルチアちゃんか〜! 名前まで可愛いとはなぁ。おいアスタ、こりゃ将来が楽しみだな」


 お父さんはちょっと照れくさそうに鼻を掻いた。


「だろ? 俺に似てるってよく言われるんだ」

「いや、それはねぇだろ!」


 ガルフィンさんが腹を抱えて笑い出す。


「アスタの顔に似てたらこんな愛嬌出ねぇって! お母さん似だな、間違いなく!」

「うるせぇ、それより──今日、場所取ってくれたか?」


 お父さんが話題を切り替えるように声を潜めると、ガルフィンさんの笑顔が少しだけ引き締まった。


「あ、もちろんだ。最高の場所を取ったさ。だけどな……」

「どうした? 何かあったのか?」


 ガルフィンさんは辺りを一度見渡してから、お父さんの耳元に小声で言う。


「最近、“金獅子商会”の連中が市場に顔出しててな。ちょっとキナくせぇんだよ」

「金獅子商会?」


 思わず私が首を傾げると、お父さんがすぐに答えた。


「王都でも大きな商会だ。……だが、あまり関わりたくない相手だ。」

「怖いね〜」

「おう、だから気をつけろよ。アスタの果物は評判がいい。目ぇつけられたら面倒だ」


 私は二人の話がよく分からなくて、少し不安になった。


「ねぇ、お父さん……怖い人なの?」

「大丈夫だ、ルチア。お父さんがちゃんと守る」


 お父さんはいつものように優しい笑みを浮かべて、私の頭をぽんと撫でた。

 でも、その瞳の奥には、ほんの少しだけ緊張の色が見えた。





 お父さんが荷車を止めると、そこはもう賑やかな音と香りの世界だった。


「ここか、ガルフィンの言ってた“いい場所”ってのは」

「そうだ。風の通りもいいし、人通りも多い。文句なしだな」


 お父さんが腰を下ろし、木箱を並べて果物を綺麗に積み上げていく。

 リンゴ、オレンジ、熟れた桃……陽の光を浴びて、どれも宝石みたいに輝いてる。


「市場って、こんな感じなんだ……」

 私はきょろきょろと辺りを見渡す。


 左右にはいろんなお店が並んでいた。

 焼いた肉の匂いを漂わせる屋台、光る石を並べている商人、薬草を束ねて売っているおばあさん。

 遠くでは大道芸人が火を吹いて、子どもたちが歓声を上げていた。


 ここは“花鳥市場”──村の人たちや、王都の外で暮らす旅商人たちが自由に出店できる場所だ。

 王都の中の市場より少し雑多だけど、その分活気がある。

“誰でも挑戦できる場所”って感じがした。


「ルチア、ほら、リンゴ拭いとけ」

「はぁい!」


 私は布を取って、ぴかぴかに磨いた。

 リンゴが光を弾いて、まるで小さな太陽みたいだった。


 お父さんは隣で看板を立てる。

『〈アスタ果実園〉 

 本日限定 朝摘みリンゴ 50円!』


「うん、完璧だ!」


 そう言って笑うお父さんの顔を見て、私はちょっと胸が高鳴った。

 これが“王都での商売”の始まりだ。

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