2.お嬢様の趣味。
「う、うぅ……」
「そんなに恥ずかしがらないでくださいよ。だ、大丈夫ですから……」
アリスが着替え終えるのを待って、ひとまずリビングへ移動して。
用意されていた朝食を出すと、お嬢様はうつむいたまま唸り声を上げていた。余程さっきの出来事が恥ずかしかったのだと見える。とはいえ、早々に朝食を摂ってもらわないと学校に遅刻してしまうだろう。
そう考えて俺は一生懸命に笑顔を作るのだが、いかんせん引きつってしまった。
「もう、今日は休む」
「いやいやいや! 何を言い出すんですか!?」
そうしていると、アリスは不意にそう言って部屋に戻ろうとする。
慌てて前に出て道を塞ぐと、彼女は珍しく円らな瞳を覗かせながら睨んできた。
「いまから、明坂くんの記憶を消す……!」
「記憶を消す!?」
次に飛び出したのは、そんな不穏な言葉。
何かの冗談と一瞬だけ思ったが、潤んだ瞳に本気を感じた。
どうやらアリスは何の冗談でもなく、マジで俺の記憶を消そうとしているらしい。
「も、もしかしたら――」
「……もしかしたら?」
「完全な記憶喪失になるかもだけど……」
「怖いよ!?」
とんでもな話をする彼女に、俺は主従関係を忘れてツッコむ。
そして思い出すのは、アリスの部屋にあった数々の禍々しいグッズだった。
なるほど。たしか彼女は以前、学校にタロットカードを持ってきていたことがある。その時に面白そうだからと占ってもらったが、こういった趣味に傾倒しているらしい。
しかし、髑髏はどう考えても悪趣味だ。
「でも、そうしないと明坂くん……ずっと笑う……」
「う、うーん……」
そんなことは、決してないのだが。
しかし、問題はアリス自身がそう思っていることだ。
それを解消しないと、どんなに頑張っても俺の言葉を聞いてくれない。
「あー……そうだ。それなら、これでどうです?」
「う……?」
だったら、と。
俺は意固地になる彼女に、右手の小指を差し出した。
「約束しましょう。その、簡単なおまじない……ですけど」
「……指切り?」
「えぇ、そうです」
「…………」
指切りのような方法なら、あるいは信じてくれるかもしれない。
そう思ったが、少し子供っぽかったか。
「…………う、うぅ」
アリスは唇を噛むと、しばらく考えてから言った。
「分かった。……今回は、信じる」
そして、おずおずと俺のそれに細い小指を絡める。
それを確認して、ゆっくりとお決まりの文句を口にしようと――。
「うーそつーいたーら……」
した、瞬間だった。
「廃人になるように呪いをかける……!」
「………………」
やっぱり、俺の仕えるお嬢様は悪趣味である。
しかし、これで問題なく学校へ向かうことができる。
そう思った時だった。
「あ、鳩時計が……って、もうこんな時間!?」
部屋に響く音色。
それに釣られて時刻を確認すると、登校時間を完全に過ぎていた……!
「お嬢様、早くご準備ください! 走りますよ!?」
「え、あう……でも――」
俺とアリスの朝は、まだまだドタバタ模様のようである。
次回は明日の……昼くらい?
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