第8話 授業開始
「今日から授業が始まりますが、昨日も言った通り、選択科目には1週間の体験期間が設けられています。1日2コマを5日間、最大10種類の科目を体験できるわけですね。1年間何を学びたいか、よく考えることのできる機会です。有効に活用してください。もちろん選択科目が既に決まっているという方は、毎日その科目を受講してもなんら問題はありません」
「本年度から新しく配属された養護教諭の先生ですが、昨日はお見えにならなかったものの、今日からはちゃんと出勤していらっしゃいます。体調を崩したときなどは、遠慮なく保健室を利用するように」
「本日から購買で、ラン・フォンテーヌ学園公認マスコットキャラクター『ランラン』『フォンフォン』のぬいぐるみキーホルダーが発売開始です。私は既に付ける用・保存用・観賞用の3つずつを購入しました。みなさんも必ず買うように」
入学2日目、朝のホームルームで、ミホリー先生が怒涛の連絡を終えた後、ついに必修科目の授業が開始した。
1時限目「地理」 担当教諭:メル・C・アーモンド
「おはよう!私が地理担当のメル・C・アーモンドだ。見ての通りケンタウロスだ。私はこれまで、この健脚を使って世界中を旅してきた。そんな旅の体験談を交えながら、みんなにはこの世界のことを学び、知見を広げていってもらうぞ!」
2時限目「文学」 担当教諭:カノン・フラワーリップ
「おはようござりんす。わちきが文学担当させてもらいます、カノン・フラワーリップと申します。どうぞよろしゅうお願いします。わちきが好きな小説は、高校生には早いゆうことで残念ではありんすけれども、ええ文学たくさん揃えておりますんで、よう楽しんでいってください」
3時限目「数学」 担当教諭:ソフィーラ・スートセオリム
「3時限目です。3は素数です。2倍して1を足した7も素数です。私はソフィーラ・スートセオリム。よろしくおねがいします。なぜ「よろしく」ではなく、「よろしくおねがいします」と言ったか。「よろしく」は4文字です。4は素数ではありません。「よろしくおねがいします」は11文字です。11は素数です。そんなわけです」
4時限目「歴史」 担当教諭:ヴィヴィアン・シン
「こんにちは。歴史を担当します。ヴィヴィアン・シンです。こんなおばあちゃんだけど、みなさん優しくしてね。私は他の先生よりもちょっと長生きしてるから、昔の話が聞きたくなったらいつでもおいで。教科書に載っていることも、もちろん大切な歴史だけど、こんな何でもないおばあちゃんの昔話が、その時代のリアルだったりするものなのよ」
キーン、コーン、カーン、コーン
4限も終わり、昼休みの時間となった。
「行くよ、アリサ!」
右隣でルルップがそんなことを言った気がする。そしてルルップがサイカのもとへ、飛び出していったような気がする。急いでサイカを引き連れて、教室を出ようとしていた気がする。
「アリサ!?何してんの!早く!」
昨日の昼食後3人で、サイカと落ち着いて昼食を取るための、ちょっとした作戦を考えた。実際は作戦というほどのものでもないが。4限が終わり次第、大量のファンがサイカに集まり収拾がつかなくなる前に、至急サイカを連れ出して、ルルップの部屋に立て籠るというものだ。
しかし女子高生だらけの教室に朝からずっといた俺は、当然動けるような状態になかった。机に伏せている俺の頭上で、2匹のヒヨコがピヨピヨ鳴きながら回転している。
「ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ
(翻訳:兄さん、『卵が先か鶏が先か』ってあるじゃん)」
「ピヨ (翻訳:あるな)」
「ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ
(翻訳:僕たちも今同じ状態じゃない?)」
「ピヨピヨ (翻訳:どういうことだ)」
「ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ
(翻訳:僕が兄さんを追いかけてるのか、兄さんが僕を追いかけてるのか、もう分からないってこと!)」
「ピヨピヨ(翻訳:それは違う)」
「ピヨ (翻訳:え?)」
「ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ
(翻訳:俺は情けない兄貴だからな。ずっと前からお前の背中を、先に行っちまう弟の背中を追いかけているのさ)」
「ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ
(翻訳:兄さん!兄さんは情けなくなんかないよ!僕が先に進めているとしたら、それは兄さんに憧れて、兄さんを追いかけ続けているからなんだ!)」
「ピヨ (翻訳:お前……)」
「ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ
(翻訳:結局僕たちはどっちも卵で、どっちも鶏なんだね)」
「ピヨピヨピヨピヨピヨ
(翻訳:待ってくれ、弟よ……)」
「ピヨ (翻訳:兄さん?)」
「ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ
(翻訳:俺たちは卵でも鶏でもない。ヒヨコだ)」
「ピヨピヨピヨ (翻訳:兄さーーーーーん!!!)」
「ほらアリサ!しっかりして!行くよ!」
ルルップは情けない俺を肩に担ぎ、サイカと一緒に寮の部屋へ走った。
「マジ!?サイカ、ドラゴンだったの!?すごっ!!」
無事ルルップの部屋へ辿り着いた俺たちは、カレーパンを食べながら、サイカについて喋っていた。
「ごめんなさい、嘘ついてて……せっかく仲良くなったのに、また特別扱いされるんじゃないかと思うと怖くて………」
「大丈夫!ちょっと気持ちわかるもん!てか私も無意識にサイカのこと持ち上げちゃってたかも……ごめんね」
「ううん!すごいって言ってくれて、みんな憧れてくれて、それは嬉しくもあるのよ。ファンの子たちにだって、ありがたいと思ってるの。でもいつの間にか周りには、特別扱いする人しかいなくなって……そんな時アリサが、この学園に来てくれたのよね!」
「はっ!ここはどこ!」
「やっと気づいたよ……はいこれ。カレーパン」
「あ……ありがとう、ルルップ。これお金………」
俺は女神から送られてきたお金を、昨日の昼食の分と合わせてルルップに返した。ルルップは全然いいのにと遠慮しつつ、拒否るのも違うかと受け取ってくれ、俺たちはそのまま話を続けた。
「そういやこの後の選択科目、何取るの?」
「私はもう気象学と天文学を取ろうって決めてるから、体験期間もその2つに絞るつもりよ」
「私も戦士の家系だし、1年は剣術と格闘術でオッケーかなって思ってるの。アリサは?」
「え、どうしよ………」
昨日からバタバタしており、午前中もほぼ気絶していたため、選択科目について全く何も考えていなかった。
「まぁ属性が分からないと難しいよねー」
「あの……そもそも属性って何、だと思う……?」
「えー何だろう?考えたこともなかったよ」
「女子高生は………違うよね………」
「もっとその人の根本的なところに関係するもののような気がするわ。例えば私は中学生でも高校生でもやっぱりドラゴンだし、ミホリー先生は違う仕事をしていても魔法使いであることには変わりないと思う」
「ミホリー先生ってすごい魔法使いらしいねー」
「属性って何となく当たり前に言ってるけど、いざ説明となると難しいものね。生まれながらに見つかってる人もいれば、大人になってからようやく見つかる人もいるし」
「アリサもいつか見つかるよ!ねぇ選択科目迷ってるならさ、今日はとりあえず私と一緒のとこ行かない?せっかくの体験期間だしさ!」
剣術と武術。正直全くできる気がしないものの、せっかく誘ってくれているし、他にやりたい科目があるわけでもない。いったん俺はこの2つを取ってみることに決めた。
「うん!一緒に行こ!」
「やーりぃーー!」
「あら、もうこんな時間。あなたたち、次剣術ならそろそろ着替えに行った方がいいんじゃない?」
「ホントだ!特にアリサは部屋から急いで体操服持ってこないと!」
ん?着替え?体操服?
ルルップに急かされた勢いのまま、俺は自分の部屋から体操服を取り出し、彼女と一緒に闘技場へ走る。闘技場に入り廊下を進むと、左手に賑わった様子の女子更衣室が出現した。
「ほらアリサここだよ!着替えよ!」
俺はひどく憔悴した。
(翻訳 ブットンダ・ナツコ)