第42話 「魔王」VS「勇者」
大勢の女子高生の前でスベり散らかした俺は、恥ずかしさで全身が赤くなる代わりに、どんどん黄色くなっていった。そして頭やお腹から、これまた黄色い何かがにょきにょきと伸び始め、遂に俺はバナナから顔と手足だけを出している全身バナナ人間になってしまった。
「お前ら!BBQ場から逃げろ!できるだけあの巨人から離れろ!」
バナナ人間になった俺をスルーしたカリーナ先生が、1―Cの生徒やサイカ・メイのファンたちに避難を促した。指示された生徒らは列になり、「魔王」のいる反対側、屠殺場のさらに向こうへと逃げていく。だが特に戦闘系の属性を持つ生徒たちはBBQ場に残り、勇敢にも危機に立ち向かおうとしていた。ドラゴンの姿を未だ維持しているサイカをはじめ、ルルップ・メイはもちろん、ミウや他にも7、8人ほどの女子中高生らがその場に留まった。
「皆さん!ここは私たちにまかせて逃げなさい!いくら偽物でも『ゆめかわまお~ちゃま♡♡』は『魔王』の偽物なんです!そこらのモンスターとはわけが違う!危険です!お逃げなさい!」
戦う意思を見せる生徒らに向け、ミホリー先生が声を上げる。
「先生!しかし『ゆまかわまお~ちゃま♡♡』に大きさで対抗できるのは私だけです!」
「サイカ様!かっこいいですわ!そして私はサイカ様をおいて逃げることなどできないのです!」
「私もメイ様がここに残って戦われるのならば、お供しサポートする所存です!」
「サイカ・ホワイトスノー!ダメだ!お前らも逃げろ!ミホリー先生の言う通りそいつが『魔王』の偽物ならば、『勇者』でないと効果的なダメージは与えられない!『勇者』にまかせるのが最善だ!」
「その通り!竹下通り!俺にまかせてちょ~だい!ピアノ売ってちょ~だい!みんなまあるくタケ〇トピアノ~」
「アリサ!またわけわからんこと言うてる!バナナ人間になったせいで、すぐスベるようになったんや!」
俺はギャグでスベった後、足元を滑らせて「魔王」の身体の上から落ちた。倒れていた「魔王」はゆっくりと起き上がった。
「効果的でなくても!少しでも学園を守る助けになるなら!私は戦います!」
「キャーーー!!!サイカ様ーーー!!!」
直立している「魔王」の腹へ、サイカが角を立て突進する。「魔王」は立ち位置をわずか後ろへズラされたが、やはり動じる様子はない。そのまま「魔王」はドラゴンの首を両手で掴むと、天に捧げるかのように宙へ持ち上げた。
「ガハッ!!!ゲホッ!!!エ゛ッ!!!」
「サイカさん!!!」
ミホリー先生が「魔王」の腕へ上級攻撃呪文をぶつける。カリーナ先生やミウたちも、「魔王」の足へと攻撃を続けるが、サイカの首を絞める両手は緩まない。
俺はバナナの皮を脱ぎ捨て、もとの姿に戻ってから、再び「魔王」への攻撃に移る。BBQ場に置いてあった荷物から太い木の棒を取り出して、カリーナ先生たちがいる「魔王」の足もとへ駆け寄った後、巨大な右足に何度も棒を殴りつける。
「グオォォォォォォ!!!!!」
痛そうに喚き声を上げた「魔王」は、右足を地面から離した。ファンシーな色をした大黒柱のような脛が、空へ上昇していく。サイカはまだ解放されない。そして足の裏が、俺たちを影の範囲に収め、そのまま地面に落下してきた。
「まずい!!!潰されるぞ!!!」
「カリーナ先生!!!俺の目を塞いで!!!!」
「アリサ・シンデレラーナ!?何を言ってるんだ!?」
「いいから早く!!!あとミホリー先生は耳を塞いで!!!」
「耳ですか!?なぜ!?」
「早く!!!このままじゃ皆潰されちゃう!!!」
俺に急かされたカリーナ先生とミホリー先生は、訳も分からないまま俺のもとへ近づいた。他の生徒たちの中には逃げ切れそうな者もいたが、明らかに間に合わない者の方が多い。カリーナ先生は後ろから俺の目を両手で隠し、ミホリー先生は前から俺の両耳を指で塞いだ。「魔王」の足が頭上から接近してくる。俺は両手を上げた。
ズウウゥゥゥゥゥン!!!!!
俺の両手のひらに、これまで感じたことのない重圧がのしかかる。全身の筋肉に力が入り、俺は歯を食いしばる。
「ふんぐぅぅぅぅぅぅぅ」
すると俺の目を覆っていた、硬く、でも形の美しいカリーナ先生の手が、ひらりと離れていった。俺は一瞬前に立っているミホリー先生と、その奥の、「魔王」の足から逃れようとしている女子高生の姿を視界に映し、あわてて目を閉じる。しかしその一瞬で緩んでしまった俺の筋肉は、「魔王」の足の負荷に耐え切れなくなる。
「カリーナ先生!!!離しちゃダメです!!!すぐ目を覆ってください!!!」
そう叫んだ俺に反応して、再び硬い手のひらが、俺の閉じた瞼に触れた。「魔王」の足におし潰されようとしていた俺は、何とか片膝をついた状態で態勢をキープした。
「ふんぎぃぃぃぃぃぃぃ」
2人の先生の助けを借り、女子高生を認識してしまう主な器官を封じられた俺は(本当は匂いを防ぐため、鼻も塞いでほしかったが、息ができなくなるのと、鼻の穴に指を入れさせるのはさすがに気が引けるのでやめた)、フルパワーを発揮できるようになり、重圧に耐えながら徐々に立ち上がろうとする。「魔王」の俺たちを踏み潰さんとする足も、一緒に持ち上がっていく。
「ふぎぎぎぎぎぎ。ふぐぐぐぐぐぐ。ふがががががが。ふごごごごごご」
全身が真っ赤になり、汗が噴き出す。顔を歪ませ、歯を食いしばり、俺は「魔王」の足を持ち上げる。
「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
そのまま俺は足の裏から「魔王」を投げ飛ばした。巨大な地響きを鳴らしながら、「魔王」が尻餅をつく。同時にサイカの首は解放された。
「アリサ!ありがとげほっ!」
「すごいぞ!アリサ・シンデレラーナ!ありがとう、こちらも礼を言う。私も命を救われた」
「やはりとんでもない能力ですね。ありがとうございます」
「いえ、先生たちに助けてもらわなければ、力を発揮できませんでした。こちらこそありがとうございます。しかし今のところ俺は『魔王』をこかすことしかできていない」
「倒すまでにはいたらないか?」
「分かりません。ただやはり1人だとなかなか………」
「ユイはもう呼んでありますが……遠くの街へ行ってるので到着には時間がかかるでしょう………」
「グオォォォォォォ!!!!!」
「魔王」が地面に座ったまま、右手をグーにして俺たちに振り下ろしてきた。思っていたより次の行動が早く、不意を突かれたため、先生たちが俺の目と耳を塞ぐ余裕も、俺の「魔王」の力に対抗するパワーもない。
俺は目を瞑った。
「ガーシルド!!!!!」
聞いたことがあるかないかの呪文を唱える声とともに、ズシンと重く空気が揺れたので目を開けてみると、頭上のすぐ近くに「魔王」のカラフルな拳が留まっていた。「魔王」の拳と俺たちとの間には、青い魔法陣がバリアーのように張られている。
「ちょー思い出に残る1年生の大事なぎょ~じ中なのに~、邪魔するとかまじゆるせないんですけど~」
次に気だるい声がして、魔法陣の上に金髪ツインテールの女子高生が飛び乗っていた。そのまま持っていた剣を魔王の拳に斬りつけて、小指と薬指の間を割く。
「グオォォォォォォ!!!!!」
苦しそうに呻いた「魔王」は右手を魔法陣から離し、顔に近づけて傷を確認する。その「魔王」の胴体の上を、1人の鋭い眼をした女子高生が、赤いサイドテールを揺らしながら、頭の方向へ走っている。やはり彼女も剣を持っていた。
「おらぁぁぁぁぁ!!!!!」
彼女が顔面に振り下ろした剣は確かなダメージとなり、「魔王」により苦しげな金切り声を上げさせる。直後怒った「魔王」は左手で、彼女を思いっきりはたき落とす。彼女は腕をクロスさせ、防御の姿勢をとったものの、コバエのように簡単に払われ、俺の方へ弾かれた。
「おえぇぇぇっっっ!!!!!」
物凄いスピードでミサイルのように飛んでくる彼女の身体を、俺は地上で受け止めた。腹に彼女の頭部がめりこみ、食後でないことを幸運に思う。俺は飛んできた彼女の勢いを抑えきれず、一緒に後ろへと投げ出される。そのまま俺と彼女は先ほど魔法を唱えた女子高生と、「魔王」の拳を斬りつけた女子高生が並んで立つ付近まで転がっていった。
「あなたたち大丈夫ですか?」
「2人ともまぢぶっとんだね~」
「うぅ……しくじった……ごめん……ありがとう………」
そう言って俺の腹にめりこんだ頭を抜いたのは、「勇者学」をともに受ける1年生、サキノ・ソルジャールームだった。そして俺たちの背後に立っているのは、同じく「勇者学」を受ける先輩たち、3年のツリーフ・ヘルドホース先輩と2年のドゴー・ラブプリンセス先輩であった。バリアーとなる魔法陣を張ったのがツリーフ先輩、「魔王」の拳を割いたのがドゴー先輩であった。
「来てくださったんですか………?」
「魔王の姿をしたモンスターが遠くからも見えましたから。ここで参上するのが勇者の役目ですわ」
「あーしも友達とおひる何食べる~?ってしゃべってる途中であのバケモンみっけちゃったから~。行くしかなかったよね~」
「勇者なら人々のピンチに駆けつけるのは当然だわ」
「みなさんありがとうございます!」
サキノの頭の形が残ったへこみを腹に残したまま、俺は立ち上がり、「魔王」の方を見た。大きく息を吸って腹をもとに戻す。そして大きく息を吐いた。
「俺たちならあの『魔王』を倒せます。力を貸してください」
「勇者学」に選ばれし女子高生4人は、「魔王」討伐に向け戦闘態勢に入った。




