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第3話 アリサとサイカ

「知らない天井だ」


 俺、有野サダメは見知らぬベッドの上で目を覚ました。頭が混乱する。死、灯篭、女神、セーラー服、転生、翼、おっぱい、一見すると統一性のない情報だが、確かにどれも、ここまでの流れで体験してきた要素だ。順に整理をしていく。そう、俺はあの女子高生の女神ジジに、ぽいっと落とされたのだ。そして白い光。温かな心地いい光。アリサ・シンデレラ―ナ。これだ。誰の名前なんだ。このアリサ・シンデレラ―ナという名前は。なぜ俺はこの名前に返事をしたのだ。そこは大きな講堂だった。座席にはこの学園の生徒らしき人たちが座っていた。俺もその生徒たちに混ざっていたような。確か生徒たちはみんな、女子高生だった。


「ぎゃあぁぁぁあぁぁあああ!!!!!」

「えええーーー!!!びっくりした!!!」


 眠っていると思っていたら急に叫び出すという、奇妙奇天烈な俺の横で、1人の女子高生が本を読んで座っていた。睫毛は長く、鼻筋も整っている。銀色の長い髪は肩にかかっており、白いリボンが頭の少し高いところ、両側に1つずつ付けられている。ふつうは上流階級のお嬢様といった印象を与えそうな彼女なのだが、今は俺に対する怯えと心配で顔がかなり歪んでいて、俺は少し申し訳なくなった。彼女は手のひらに人らしき字を3回書いて飲み、落ち着いて顔を綺麗に戻してから、口をきった。


「あなた、入学式で突然倒れましたけど大丈夫ですの?保健室に運んでもらって処置はしていただきましたけど……何だかあんまり効果なかったみたいで……いったん安静ということになってますけど」

「入学式?何の入学式ですか?」

「あら、このラン・フォンテーヌ学園高等部の入学式に決まっているでしょ」

「ラン・フォンテーヌ学園?そこに俺は転生したんですかばばばばばばば」


目の前にいる女子高生に耐えきれなかった俺は、突如発作を起こしてしまった。


「どうしたの!?転生って何!?あなたさっきからおかしいわよ!?」

「すびば。すみません。俺、女子高生にトラウマがあって………」

「女子高生にトラウマがあるの!?あなたも女子高生なのに!?」


俺が女子高生?どういうことだ?ふと彼女の後方にあったピカピカの鏡が目に入る。彼女の気品ある後ろ姿の向こう側、俺が座っているはずのベッドにいたのは、かつてニュウドウカジカに例えられたほどの、おそろしく残念な顔面の男ではなく、金髪のポニーテールにルビーのような赤い目が輝く、かなりかわいい女子高生だった。


「なんじゃこりゃあ!」


 慌てて俺は胸を触る。


 むにゅ。たゆたゆ。ぷるんぷるん。ふにふ(以下略)


ある。確かに豊満な乳房が付いている。しかしこれは転生の前、女神がいた灯篭の空間でも体験済みで、俺はそれほど動揺しなかった。問題はその下、果たしてヤツはぶら下がっているのか。何となく結果は分かっているような気もするが、一応この手で確認しないと気が済まない。ゆっくりと布団の中に右手を入れる。



 えー、本時刻より秘宝の調査を開始する。指揮は私、親指がとる。


 隊員点呼!人差し指!

 

 はい!


 中指!


 はい!


 薬指!


 はい!


 声が小さい!薬指!


 はい!


 まだ小さい!薬指!


 はい!


 小指!


 はい!


 よし、全員いるな。作戦の概要を発表する。本作戦は、洞窟の最深部にあるといわれる、黄金の玉が2つと聖剣が1本を目標とする。まずはここ「フトン」と呼ばれる成分で作られた洞窟を下っていく。しばらくすると下方に「スカート」と呼ばれる成分でできた洞窟が現れるはずだ。折り返すようにその洞窟に潜入し、最深部に目標があるかを確認する。


 もし無かったらどうするんですか?


 口を慎め薬指!今はあることだけを考えろ!


 はい!


 それでは作戦を開始する! 


(数秒後)


 隊長!「スカート」の洞窟発見しました!


 了解人差し指!


 隊長!この洞窟、両側の壁が動くみたいですよ!


 黙れ薬指!俺が今から説明するところだ!これは「アシ」と呼ばれる成分の壁だ。挟まれても大事には至らないだろうが、一応警戒しておけ!それでは潜入開始!


 (数秒後)


 隊長!最深部です!


 了解中指!目標を探せ!


 隊長!目標確認できません!


 黙れ薬指!もっとよく探せ!


 隊長!目標確認できません!


 了解小指!これにて作戦を失敗とする!



 ついにイチモツを確認できなかった俺は、女子高生に生まれ変わったと悟らざるを得なかった。


「あの、アリサさん。かなりお下品ですよ」

「あっ、すみません」


 慌ててスカートの中から右手を引っこ抜く。


「それと俺、アリサっていうんですか?」

「アリサ・シンデレラ―ナさんじゃないの?さっき名前を呼ばれて返事してたでしょ?」

「そ、そうですね。そうかもです。それでお姉さんの名前はなななななななな」

「また故障した……あとお姉さんじゃなくて私もあなたと同じ新入生よ?クラスも同じみたいだし……私はサイカ・ホワイトスノー。よろしく、アリサさん」


 そう言ってサイカさんは俺に右手を差し出した。やっぱりよろしくのときは握手だよね!俺も右手を差し出そうとする。女子高生に対して…………


 女子高生に対して!?!?


「あっ…あっ…あっ…あ、あっ………」


 俺は女子高生と握手をするという本来あり得ない展開に、再び卒倒しそうになった。しかしサイカさんは善意で手を出してくれている。無理に気を遣ったり、何か裏があるわけではないことが、はっきりと分かる。思えば彼女は、俺が目を覚ますまで隣で待っててくれたのだ。急に叫び出したり壊れたり、変人だと切り捨てられてもいいぐらいのことを既にしているのに、それでも握手までしようとしてくれているのだ。この人は今まで俺を苦しめてきた女子高生とは違う。確かに俺は生まれ変わった。無職のしなびた男から、ピチピチキュートな女子高生に転生した。だが本当に、新しい人生をゆくのならば、俺は女子高生を乗り越えなければならない。でないと前の人生と何も変わらない。生まれ変わった意味がない。


「あの……」

「どうしました?」

「あの…左手にしましょう……俺さっき右手、変なとこ触っちゃったし………」

「うん!そうしましょ!」


 サイカさんは右手を引っ込め左手に変えた。俺もビクビク震える左手を少しずつ上げる。2人の手が近づく。まだ触れていないのにサイカさんの体温を感じ、心臓の鼓動が速くなる。指先から触れ、触れられる。優しくゆっくりと、柔らかい手を握り、握られる。


 俺は今、一歩を踏み出したのだ。女子高生と握手をしているのだ。女子高生と!!!握手をしているのだ!!!



パアァーッ



 天から光が差す。室内なのに。どこからか聖歌が流れてくる。俺の魂が、光の方へと昇っていく。やり遂げた。俺はやり遂げたのだ。もう悔いはない。さようなら。ラン・フォンテーヌ学園。さようなら。サイカ・ホワイトスノーさん。さようなら。読者の皆様。


 俺は幸せでした。


 (完)



「アリサさーん。戻ってきてくださーい」




「それにしても女子高生が苦手なのに、この学園でやっていけるの?」


 俺はサイカさんに連れられて教室に向かっていた。


「まあ男子と仲良くやりながら、ゆっくり克服しますよ」

「あら、あなた一応入学式で周り見渡したんでしょ。ここは女子校よ。先生含めて男はいないわ」

「え。」


 確かに俺はさっき、女子高生の克服に向けて一歩踏み出すことに成功したが、まだ女子高生が怖くないわけではない。実は薄々ここが女子校であることには感づいていたのだが、心が耐えられそうになかったゆえ、脳みそが勝手に男もいることにしていた。女子高生に恐怖している者が女子校で暮らすなど、ハードルが高すぎやしないか?どっと不安が押し寄せる。


 ガラガラ。サイカさんが教室の扉を開ける。


「キャーーーッ!!!サイカ様が帰ってきたわ!!!」

「おかえりなさいませ!!!サイカ様!!!」

「なんて美しい方なの!!!これから毎日おそばにいられるなんて夢のようだわ!!!」


 驚いた。確かにサイカさんは容姿端麗で優しさもあり、おそらくリーダーシップも相当のものだろう。実際俺もこの短い間で心をわしづかみにされたのだから。だがまさかこんなにもカリスマ的扱いをされているとは。女子校って本当にこういうところあるんだ。そして当たり前だが女子高生ばかりだ。クラクラしてきた。やはりまだ女子高生克服への道は遠い。


「あっ、入学式で倒れた人じゃん!」

「何で倒れたの?緊張のしてたの?」

「今日の式で一番目立ってたよね!」


 そうだ。俺、アリサ・シンデレラーナは、女子高生が怖い怖くないという以前に、そもそも高校デビューを華麗に失敗していたのだった。



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