第42話 閉道
神祇伯と住職がこの地に現れ、明鏡の姿をもっての黒僧と対峙する状況となった。
水景 瑜伽神祇伯……保有する秘密は、とても大きなもので、それに比例してその力も大きなものだった。
新たに現れた五輪塔は、形を崩す事なくその姿を留めている。
……圧巻だった。
神祇伯の手が、自身の目元をそっとなぞる。
「私は……自らの手で、その目を刳り貫いたのですから。師僧……貴方の目の前で」
神祇伯の言葉に黒僧は、ふっと笑みを見せた。
その笑みに、黒僧がそうする事を迫ったのだと思った。
師僧と仰ぐ者からの抑圧……自らも僧侶であるというのに。
そして、黒僧と呼ばれる理由が、神祇伯が口にする言葉で明かされるようだった。
「験者であれば寺に属せ、寺に属したならば、廃寺を免れる為に神社と名を打ち、還俗して神職者……今となっては神祇伯でありますが。そもそも、この処に於いては神社と名を変えようが、廃寺を免れる事などあり得なかった事。神社に置かれた宮寺は、神社のみを残して廃寺とされたのですから。ですが……その神社も神社合祀で結局は廃社とされましたが。師僧……貴方に一つ、伺いたい事があります」
その言葉に、黒僧が眉を顰めるのを神祇伯は視認した後、ゆっくりと口を開いた。
黒僧は、神祇伯が口にする言葉に気づいていた事だろう。
「断壊を使ってまで勝ちを譲らなかったものを、その手で捨てたのは何故ですか」
「では逆に訊くが、張り合ったのは何の為だ。瑜伽……お前が私に挑もうとしなければ」
「高宮 来生が継承権を失い、この処まで奪われる事はなかったと仰いますか」
神祇伯は、黒僧の言葉を遮ってそう言った。そして、強い目を向けて言葉を続ける。
「治天の定めがないが為、継承に値せずと来生を追い遣り、そちら側は強引にも治天を定め、継承権を手に入れた……そこまで力を添えていたというのに……」
神祇伯の手が、そっと黒僧の衣を指すように動く。
「勅許を与えられていたにも関わらず、紫衣を戻せとの通達には嘸、驚かれた事でしょう。治天を定めたとはいえ、独断での譲位、王政を目指したとはいえ、反対派は多数でしたでしょうから。それは敵味方……関わりなしに」
神祇伯は、手を下ろすと、黒僧の反応を窺う。
少し間を置いても、黒僧の反応がない事に、神祇伯は言葉を続けた。
「少々、話を戻しましょうか。治天の定め……国主一族の当主、国母と称される女性は、師僧……貴方がそう結び付けた……それが『宣託』であるとして。元々、師僧は自身で門を開いており、私も奎迦も、その門弟でありましたが、師僧は官僧として国に仕えた……ですが、師僧が仕えた国主の後継が途絶え、その流れも思うようにはいかず、来生の実弟が国主の座に就く他になかった。後継がなければ、その思惑も叶いはせず、貴方の身の置き場もなくなるというもの。遁世されたのも、それが理由の事でしょう」
神祇伯の言葉を続けるように、黒僧が口を開いた。
「その間に門を出たお前たちが、後に官僧となるとは思いもしなかったがな」
「いえ……お言葉ですが、それは妄言でしょう」
はっきりとした口調で言いながら、神祇伯はゆっくりと瞬きをするとこう言った。
「輪廻のように循環しているのですよ……私と奎迦を官僧とする事が、師僧……貴方の思惑そのものであったかのように」




