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処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
第二章 陰と陽
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第36話 比和

「回向……お前を反剋する」



 蓮は、何かを描くように指を動かし、それを回向にぶつけるように指を弾いた。

 重圧を感じる空気が走っていく。

 その風圧が、地を削りながら回向へと向かった。


「蓮っ……!!」

 羽矢さんは、やめろと言うように蓮の名を叫ぶと、回向を庇って前に立った。


 ……これは……どういう……。何故……どうして……。


 回向の前に立った羽矢さんは、真っ直ぐに蓮を睨むように見据えている。

 受け止めようとしているのか、羽矢さんは身構えた。

「羽矢さん……!」

 止めるべきか……だけど蓮は……。

 蓮を思うと止める事も出来なかったが、せめて避けて欲しいと思い、叫んだ。

 呪力を使う蓮も回向と同じで、苦痛に顔を歪めている。

 額の傷から血が流れ落ち、衣を染めていく。

 力を使えば使う程に、傷を深めていくようだった。


 共に肩を並べて来た者同士で対立するような状況に、羽矢さんたちの背後で、炎に包まれたままではあったが、黒僧の笑う声が聞こえた。


 均衡が崩れたとしたら……。

 その言葉が現実のものとして現れたのが、今、目にしている事なのか……そう思う事に恐れを抱く。



 勢いを増しながら向かっていく風圧が、羽矢さんに近づいていく。


「……羽矢、どいてくれ。お前が前に立とうとも、俺に向けられて放ったものを避けられはしない」

 回向が、羽矢さんを押し除けて前に立った。

 回向は真っ直ぐに立ち、受け入れるようにも、目を閉じた。

 蓮が放った呪が、羽矢さんを回向から引き離すように大きく広がりを見せ、回向を中心に飲み込むように向かう。

 必死に回向へと手を伸ばす羽矢さんだったが、強い風圧に押され、掴む事が出来ない。

「回向……!」

 羽矢さんの回向を呼ぶ声が流れると同時に、ドンッと鈍い音を響かせて風圧が回向にぶつかった。

「……当たったな」

 そう言って蓮は、ふっと笑みを見せた。

 回向は倒れる事はなかったが、体全体を押され、後方に足を滑らせた。

 蓮の指がまた何かを描き、指を弾く。

 黒僧を取り巻く炎が大きく噴き上がったかと思うと、勢いは直ぐに治まったが、噴き上がった時に飛び散った火の粉が地に移り、回向の周りを囲むように広がった。

 檜扇を手にする回向だったが、振りもせず、立ち尽くしている。

 間なく蓮の指が動く。

 地が土埃を舞い上げ、空へと昇り、雨雲を作った。

 轟き始める雷鳴。ポツポツと雨が降り落ちて来る。それは次第に粒を増し、視界を霞ませる程に降り出した。

 回向の周りに広がった火は弱くも消えずにいたが、回向は力尽きたように膝をついた。

 羽矢さんが回向の元へと向かおうとしたが、回向を中心に結界が張られたように近づく事が出来なかった。

 


「蓮……!!」

 次の瞬間、羽矢さんが蓮を倒すような勢いで向かって来た。

 蓮は冷静だった。ゆっくりと手を下ろし、その場から一歩も動く事はなく、羽矢さんを待っている。



 不安になる僕は、蓮の表情を窺う。

 僕の目線に気づく蓮は、向かって来る羽矢さんを真っ直ぐに前を見ながら僕に言った。


 それは僕にとって、言葉を失う程に衝撃的な言葉だった。

「……!」

 あまりの驚きに混乱し、目の前が真っ白になったような感覚に、現状の把握が出来なくなる。

 瞬きをするのも忘れ、ただ……羽矢さんと蓮が、互いに睨み合うのを茫然と見ていた。


 僕に言った蓮の言葉の意味が、この現状とどんな繋がりを持っていたのかを理解出来たのは、明鏡が立ち上がった後だった。



「……依……悪いな。これだけは……譲れない。例え……お前が俺から離れたとしても」

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