表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
第二章 陰と陽
70/181

第23話 女神

 浮かび上がったその姿を中心に渦が巻いた。

 それでもその姿は、渦に飲まれる事なく、姿を現している。


 明鏡はゆっくりと立ち上がり、力無くも小さく歩を進め始めた。

 ふらりふらりと歩を進める明鏡の様子は、気力をなくしたように見えた。

 河原へと近づく明鏡に、女の手が差し出すように動き、血の脈が伸びてくる。


「チッ……それ以上、近づくな! 明鏡!」

 回向の手が空を切ると、明鏡に絡む前に断ち切られるが、断ち切られる度に伸ばし、明鏡に絡もうとした。

 蓮が回向の脇に立ち、向かってくる血の脈を回向と共に断ち切っていく。

 だが、攻撃するようにも蓮と回向に向かってきていた血の脈が、二人の脇を擦り抜けて、背後にいる明鏡に絡んだ。

「明鏡っ……!」

「……もういい、回向」

 諦めたようにそう言った明鏡に、回向が苛立ちを示す。

「なに……勝手な事を言ってやがる……! 散々、掻き乱しておいて、あっさり離脱かよ。ふざけんじゃねえぞ。付き合わされている身にもなれ、馬鹿やろう。お前が諦めたところで、向こうは諦めてはくれねえぞ。その執念を断ち切らねえ限りな」

 回向は血の脈を掴み、断ち切ろうとしたが、強く絡みついた血の脈が明鏡の体に浮かんでいる脈と繋がり、次第に太さを増していく。


 明鏡の表情が苦痛に歪んだ。

 回向は舌打ちをすると、河原に浮かぶその姿をじっと見つめて言った。

「……随分と……強引な……」

 回向の言葉に蓮が答える。

「ふん……治天を定める必要があったとはいえ、強引にも結んだらしいからな。それが猶子(ゆうし)とする事にも繋がったんだろ。そうでなければ継承も出来ない。その思いが重圧となって残っているんだろう。まあ……だからこそ執着も残るという訳か。それも役目の一つ……求めるべきものは、そこにしかないんだからな……だがこれじゃあ、その思いを果たそうとしても、明鏡の体がもたねえぞ」

 冷静にも蓮はそう言って、河原へと近づいていく。

「紫条!」

 呼び止める回向を肩越しに振り向くと、蓮は答える。


「待っていろ。そこの『死神』と話をつけてくる」

手短(てみじか)に頼む」

「ああ、そこに難はないだろ」

 蓮は、クスリと笑みを漏らして、羽矢さんへと歩を進めて行く。


「はは。事は簡潔に……か? 蓮」

「ああ、当然だ」

「承知」

 クスリと笑みを漏らす羽矢さんの手に、大鎌が握られる。

「なんだ。出来るんじゃねえか」

 冷めた目で羽矢さんを見る蓮に、羽矢さんはにっこりと笑う。

「だって、俺には向かってこなかっただろ?」

「ふん……それならそうと、静観しているんじゃねえ。門を開く事が出来るのなら、教えてやれよ……その救いが何処にあるのか……」


 蓮の言葉が流れる中、羽矢さんは女から伸びた血の脈を断ち切った。


 ……速い。


 バラバラと飛び散った血の脈が宙を舞う。

「回向!」

 羽矢さんの呼び声に、回向の手が空を切ると、切断された血の脈が河原の中へと沈んでいき、渦に飲み込まれていく。


 血の脈が沈んでいく様を見つめながら、蓮は、まだそこに浮かぶ姿へと話すように言った。

「天孫降臨……たった一つのこの上ない神は確かに女神だ。神の系譜に於いて女神は多いが……それでも……」


 蓮の言葉が切なげにも、続きを話すように流れていく。

「呪いだ祟りだと鎮める為に、神と結び付け、神となった()()()()はない。ただ……御霊と敬うだけだ」

 蓮の隣に回向が立った。

 蓮は、ちらりと回向に目線を向けると言う。

「絡んでいるのはこれだけじゃねえぞ。一つ一つ……(ほど)いていくしかねえな……回向」

「ああ……先ずは……」


 回向の声が静かに流れる。

 羽矢さんが両手を合わせ、そっと目を閉じた。



「成仏……してくれ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ