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処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
第二章 陰と陽
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第15話 成満

「懺悔……ですか?」

 明鏡は、何故、自分がと不思議そうにも回向を見る。

 自身の行いにどのような問題があるかという事にも気づかず、響くものはなかったようだ。


 それでも回向は、説得するようにも明鏡に言った。


「お前と同じ法力を知っているからこそ言っているんだ、明鏡」

「知っている、だけでは?」

 不遜にも笑みを見せて、斜めに回向を見る。


 ……伝わらない。

 同じ法力を持っていても、自分の方が力は上だと自信を持っているからなのだろう。

 確かに……明鏡の法力は回向の力を上回った。

 だけど……。


 回向は、困ったように溜息をついたが、言葉を続けた。


「勘違いをするなよ。俺はお前に、右京への謝罪を求めている訳じゃない」

「だから……開けてみろと言うのですか? 塔を出現させたのなら、あなたの方こそ開けてみては如何ですか、水景さん……? 気になっているのでしょう? 天子の本命が」

 そう言いながら、明鏡の目線がちらりと羽矢さんに向いた。

 塔の出現に多少の驚きはあったものの、それが現実に影響を及ぼすものではないと、判断したのだろう。

 既に焼失していた塔が、原型を取り戻す事などあり得ず、空中に浮いている事が幻影であると思うのは僕も同じであったが、そもそも羽矢さんは明鏡を驚かせる為だけにした事ではない。


 ……早く気づいた方がいい。明鏡以外の誰もがそう思っていた事だろう。

 回向は、静かな口調で明鏡に言う。

「呪いの神社とされた無数の人形(ひとかた)……あの人形には釘が打ち込んであった。人形に釘を打ち込む呪殺法は、大威徳法だ……その名の通り、大威徳明王の力をもってして行う。摧魔も同じだ。明鏡……親父がお前に言ったあの言葉……断壊に限った事ではないと分かっているか」


 摧魔もまた同じように、結界を破る事なく……結界の中に入る事が出来るという法だったんだ……。

 ああ……回向はあの時、言っていた。

 呪いを返すなら、同じ神仏の力を使った方がいい……と。


 回向は、明鏡の反応を窺うように、じっと見据えていたが、明鏡の表情は変わる事はなかった。



(さと)しても気づく事が出来ないのなら、持経者であるべきじゃねえな。本来ならば、お前がすべき事だろう。明鏡という法名を与えられたなら、尚更な」

 羽矢さんはそう言い、困ったように溜息をついた。

 そして、真顔で明鏡を見ると、低く響く声ではっきりと告げる。


「総代の痣は消えた。その呪い……受けるぞ。それは掛けた呪いが返るというよりも、成満(じょうまん)によって受けざるを得ない呪いだ」

 明鏡の目がピクリと反応を示すが、恐れを抱いている様子ではなかった。

 当主様の痣が消えたという事だけに、反応したのだろう。

 大きな力を持っているのは自分であるという自信が、明鏡を支えているようにも見えた。それが全てであるように……。


「……だから……懺悔しろと……?」

 悔しさに震える声が、その表情にも苛立ちを見せ始めた。

「あなた方は……この僕にまでも……救いの手を差し伸べると言うのですか……? 一つも漏らす事なくと……この僕にまで……?」

 そう言いながら手を伸ばす明鏡は、苛立ちに表情を歪ませると、握り潰すようにその手をギュッと握った。

 救いなどいらないと言うように。

 明鏡は、羽矢さんと回向を鋭く睨む。

 ギリッと歯を噛み締め、紫衣を握り締めると、握り締めたところから、紫衣が黒く染まり始めた。

 警戒を示す蓮が、僕の盾になるように立ち、羽矢さんと回向は、強く地を踏み締める。



「大法を使えば、懺悔法を行わなければならない事など……承知の上……!」


 闇夜に響く明鏡の、叫びに近い大きな声が、霊山全体を震わせた。


「三界を有するこの身こそ、その地獄を留まらせるに明かせるものなどありはしない……!!」

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