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処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
第二章 陰と陽
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第14話 五逆

『お前の滅罪経……使ってみてくれよ。その法を誹謗した者も含めて……な?』


 ……逆縁。

 誹謗したのは明鏡自身という事なのか……。



「前聖王がお前の本当の師だったんだろう?」


 回向の言葉に驚いていたのは、僕だけだった。

 蓮も羽矢さんも、表情を変える事はなく、回向同様、真顔で明鏡に迫っている。


 前聖王が……明鏡の本当の師……。

 じゃあ……黒僧とは…… 一体……。


『ある時期で継承は途絶えたと……』

『正当な系譜にはないが、庶子を表に出し、そこに充てる……つまりその者は落胤だ』


『継承とは……何を維持するものなのでしょう。そこにある象徴も、時の都合で変わる……ただそこに根強くもしがみ付いているものは、血統だけです。それが例え落胤であろうとも、興起の役に立つなら表にも出す……』

『だったら……言えばいいだろ。その紫衣……着けたくて着けている訳じゃねえってな』


 あの言葉の意味って……。


『そもそも、この紫衣こそが僕の存在理念なのですよ。例え……その色を変えても……ね……?』


 様々な疑問が浮かぶ中、明鏡は笑って否定した。

「何を言うかと思えば……そんなはずがないでしょう」


 ……だけど……。

「じゃあ……その答えを明確にする前に、少し……話をしようか」

 そう言って、羽矢さんが口にする言葉に、何がどう繋がるのかと驚きもあったが、聞いている内に深く納得した。



「この処にあった神社の神木は、他の神社に移されたんだ。その神木が移された事で、高宮 右京は、その神社で神司を務めていた。あの神社……権現造りなんだよ。神仏混淆時の社殿様式ではあるが……」

 羽矢さんは、明鏡をじっと見つめながら言葉を続ける。

 明鏡は、眉一つ動かす事はなかったが、口を挟む事なく、羽矢さんの話を黙って聞いていた。


「霊廟を権現造りで建てている。廟が神社と名を称するのは、祀っているのは人神であり、そもそもが人神を祀るのは祟りを鎮める為だ。そして神号を与え、祟りを起こさせない為に調伏する」

 僕たちの目線が明鏡に集中する事に、詰め寄られているような状況は、やはり不快であるのだろう。

 それでもその感情を表に出せば、認める事になってしまう。

「それが……なにか?」

 冷ややかにも見える表情で、明鏡は静かにそう答えた。


 羽矢さんの言葉が続けられる。


「呪いの神社と言われていたんだよ。それも……高宮 右京が神司になってからな。高宮があの神社の神司になれたのも、祀ってあった人神が、分かれたとはいえ血族だったからだろう。まあそれも、そうなるよう神木を移したんだろうけどな。この処にあった神木は、高宮の父親、来生が宮司を務めていた神社のもの……因縁がないとは言い難いだろ」

 そう答えた羽矢さんに、回向の言葉が繋がれる。


「あの神木は、廃仏毀釈が起こった場所にあったものだと、その神木を移された神社は、怨みを晴らす事に力を貸してくれる……そう都合のいい解釈を押し付けた……廃仏毀釈を行った者は、その祟りから逃れる為に、人形に呪いを向けさせ、己に呪いが降り掛かるのを避けた。それが呪いの神社と言われるようになった理由だ。親父はあの神社で調伏を続けていたんだ。怨念を持った無数の魂など、導きに値しないと怒りを露わにしていたよ……俺たちと敵対するようになる程にな。調伏の為に親父が摧魔(さいま)を使っていた理由も、これではっきりした。それもそうだよな……明鏡……お前が姿を現した事が、どうやら『本体』に結び付くようだ……その紫衣を身に着けるなら……」


 回向の声が重く、低く、闇夜に流れた。


「今直ぐ至心懺悔(ししんざんげ)しろ」

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