第5話 社叢
「……成程。中継ねえ……」
蓮の言葉に回向は、納得を見せる。
興味深そうな表情を見せて、回向は何度も頷いた。
「その言い方も強ち間違いではない……か」
蓮から目線を外し、遠くを見るような目を向ける。
その様子は、何か考えを巡らせているように見えた。
回向は、ゆっくりと歩を進め始め、僕たちは回向の後を追って共に歩く。
本殿を後にし、回向は更に奥へと歩を進めて行く。
立ち並ぶ木々が生い茂り、陽を遮って薄暗く、森の中にいるようだ。だが、それは以前とは違い、落ち着きを感じさせた。
神社を囲むように生い茂る森林……鎮守杜だ。
散策するように歩きながら、回向は静かに口を開く。
「社叢……鎮守の森と言った方が耳に馴染むのだろうが、神社を囲むように生い茂る木々は、社があるから木々があるんじゃない。木々があるから社がある……なあ、そうだろう、紫条?」
「そもそもが神域だからな」
蓮の言葉に回向は、蓮を肩越しに振り向くと、静かに笑みを見せた。そして、足を止め、空を仰いだ。
木々の隙間から差し込む日差しが、木々の枝が揺れる度に、キラキラと光を踊らせる。
回向は、時折眩しそうに目を細めるが、少しの間、見上げていた。
回向へと目線を向ける僕たちは、回向が口を開くのを待っていた。
「森羅万象全てのものに、魂が宿っている……自生する木々は、神性としての対象ともなる。だが、その対象が大きくなればなる程、目に捉える事の出来ないものの存在を、ここにいると指し示す為にも、神の社をそこに置く」
回向は目線を下ろすと、僕たちを振り向いた。
「だが、存在を示すにあたり、その理由……尚更にそれを、唯一無二の存在であると誰もがそう意識するには……」
回向は、ふっと笑みを漏らして、言葉を続けた。
「物語が必要なんだよ」
回向の言葉に、蓮の目がピクリと動き、反応を示す。
「勘違いするなよ、紫条」
蓮の反応に回向は、蓮が口を開く前に、そう言った。
「ふん……勘違いなんかしてねえよ。由来ってやつだろ」
「まあな。だがそれも、表立って強調出来なければ、はっきりと映し出されたものに掻き消される」
回向は、ふっと笑みを見せると、言葉を続けた。
「社叢の中に社があれば、社の中には神がいて、社叢は社の神を守る為の結界のようなものとなる。不思議だろう? この時点で、社叢は社の神とはまた別の存在のように思えるだろ」
「だが、社の神の力があるからこそ、社叢にはその神の力があると言えるだろ」
「ほらな? それだよ」
クスリと笑みを漏らす回向に、蓮は溜息をついた。
「言いたい事は分かるがな……まったく……面倒臭い奴だな」
蓮の反応に満足そうな顔を見せる回向は、ふうっと息を長くつくと、静かな口調で話し始めた。
回向は、蓮が聞きたい事に気づいていたのだろう。
その道筋を明かす話だった。
「氏族にしても同じ事だ。同じ姓を持つ者は、その姓が力を示す。だがそれも、国主が基準となる。国主がそこにいなければ、国主を囲う氏族も力を示す事は出来ないというものだ。社が成り立てば、そこにある力は同じ領域を広げる……」
回向の言葉に納得を示す蓮は、回向の言葉の先を続ける。
「成程……それ以前に国主の家系は分かれていた……つまりは両統迭立だったという訳か」




