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処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
第二章 陰と陽
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第8話 機先

 僕は、回向と目線を合わせたまま、言葉を続けた。

「……そうですね。それは、理論に基づいてのもの……その理論は、元よりあなた方にお有りのものではと」

「……ああ、そうだ」

「では……そもそもの仏の道の布教に於いて、仏塔に納められた遺骨は、分骨されたものであるという事は、ご存知ですか?」

「……ああ、知っている。分骨された一部……それを持ち帰ったのは、親父だからな」

「お聞きになりたいのは、その有無ですよね。それは、僕が保有している訳でもなく、仏塔の焼失と共に、失われました。分骨といっても、とても小さく、粒と呼べるもの……当時は勿論の事、それを今となって探しても、見つかる事などないでしょう」

「それは……分かっている」

 不安が伝わって、回向の心情は、読み取る事が出来た。


「僕が思うに、あなたが断壊を使ったのは、高宮 来生が死した後、高宮 右京を国主とする為のものでしょう……ですが、二派同時に行われた断壊は、両統迭立の中で行われたものであり、それは当然、あなたが断壊を行う以前の事……」

 僕が口にする言葉は、もう皆、気づいている事だろう。



「その時の断壊を行った一人は、水景 瑜伽神祇伯ですよね……? そしてそれが、謀反と見做されたのではないのですか?」


『継承権を失うのは、大抵は……謀反だ』

 回向が口重くも言ったあの時の言葉に、蓮が言った言葉が納得へと繋がる。

『連座というなら、前聖王の方が、その責任を来生と共に背負わされるんじゃないのか。兄弟だろう、何故、弟を抜いて臣下なんだ』


 そして……互いに争いつつも、国主となったのは、来生の弟……だけど、前聖王は中継ぎだ。


「……依」

 蓮が僕の肩にそっと手を置いた。

「……すみません。喋り過ぎました」

「いや……いいんだ。訊いたのは俺なんだから」

 回向は、そう言って静かに頷きを見せた。

 微妙な空気感に、沈黙が続く。

 今、何をどう口にしても、推測でしかない。


「じゃあ……行ってみるとするか」

 その空気感を変えるように、羽矢さんがそう言った。

「今からかよ? 羽矢」

「善は急げ、だろ? 蓮」

「善かどうかは微妙なところだけどな……まあ、回向、お前も時を待てないようだから、行くとするか」

「紫条……羽矢……」

 回向は、ホッとしたような顔を見せ、ああと頷いた。


 向かう先は、霊山だった。


 山上中央の塔……天子の本命(ほんみょう)……か。

 既に失われているものではあるが、何かの傍証は見つけられるかもしれない。

 紫水 明鏡に辿り着く、何かが……。


 だけど……。

 先に動いたと思っていたが、それは、そう動かされていたのではないかと思う事になった。


 僕たちを待っていたかのように、そこには明鏡がいた。

 辿り着いたのは真夜中で、月は高く昇っていた。遠く、遠く、手を伸ばしても届く事はない。

 それでも、月の光が降り落ちて、明鏡の姿を浮かび上がらせている。

 その様が『迹』を示しているようで、僕たちの会話や考える事が、筒抜けであるかのような現象に、驚きと共に恐怖さえ感じた。



 明鏡は、包むように手を合わせ、手の間を開けるようにゆっくりと広げ、掬うような動きを見せる。

 そして静かな口調で、言葉を発する。

 僕たちに問い掛けるように……譬えた言葉で……。


「両手で水を掬っても、指の隙間から水が零れて、手元の水は残り少ない……」

 クスリと小さく笑みを漏らすと、明鏡は僕たちへと目線を向け、こう言葉を続けた。



「それでもあなた方は、()()()と言えますか……?」

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