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処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
第二章 陰と陽
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第7話 傍証

「迹から始まる物語……ね。成程。本体を理解する上で、必要な傍証か。それは……面白い」

「はは。お前らしい解釈の仕方だな、蓮」

「ふん……羽矢。お前こそ、お前らしくなったじゃねえか」

 揶揄うようにニヤリと笑みを見せる蓮に、羽矢さんは笑って答える。

「なにを言ってやがる。俺に俺らしいものなどある訳がねえだろ。俺は俺なんだからな」

「はっ。お前が先に言ったんじゃねえか、馬鹿羽矢」

 笑い合う二人を見ている事が、僕に安堵を与えて、僕の顔にも笑みが浮かんだ。


 空高く昇った月は、遠く離れて届きはしない。

 どちらにしても掴む事は出来ないが、水辺に映った月の方が、空に浮かぶ月よりも近い距離にある。

 それだけ、本体を見極めるに、理解し易くなるという事だ。



 ……理解……し易く……。


「行くなら俺も連れて行け。お前たちだけで話を進めているんじゃねえよ」


 門の前で話をしている僕たちへと、声が走った。


「なんだ、明鏡と同じものを持っているだけあるな? 盗み聞きとは趣味が悪い。だが、趣味が悪い者同士でも、相性は合わないようだがな。なあ、回向?」

「紫条……お前な……」

 苛立ちを露わにする回向の声に、蓮は、ははっと笑う。

 そんな蓮を軽く睨む回向は、言葉を続けた。


「総代の痣が消えたと聞いた事だし、親父と共に報告も兼ねて総代に会いに行ったんだよ。お前から聞いているとは思ってはいたが、本体は俺のところに置く訳だからな……お前が羽矢のところに行っていると聞いたもんだから、ついでに寄ろうと思って来たんだ。そしたら、お前らの話し声が聞こえただけだ」

「ふうん……? その割には、向かう場所が分かっているみたいだな? 俺も羽矢も、そんな話はしていなかったぞ。一体、何処に行くと言うのかな……?」

 蓮は、覗くような目で、回向を見る。


 回向は、深く息をつくと、重そうにも口を開いた。

「その前に…… 一つ……確認したい事があるんだが……」

「なんだ?」

「いや……紫条、お前じゃなくて……依、お前に」

「え……僕……ですか……?」

「ああ……。焼き討ちにあった時の事……いや……やっぱり、いい」

 回向にしても、僕に気を遣っているのだろう。

「おい……回向、お前……」

 蓮が眉を顰める。

「霊山に行ってみれば、それでいいか……」

 回向はそれ以上、訊くのをやめ、そう呟いた。

 蓮と羽矢さんが顔を見合わせる。



「山上中央の塔……ですか」


 僕は、会話が止まった間を埋めるように、言葉を発した。

「……依」

 少し驚いた顔を見せる蓮に、僕は大丈夫と頷きを見せる。


「仏塔……仏舎利です。遺骨を納める塔がありました。廃仏毀釈にしても、その毀釈の意味は、ご存じとは思いますが、仏の教えを(こわ)すというもの……ですが、その字に表される通り、その仏とは、釈迦如来を示すものです」

 回向の目線が、確信を得たように動いた。

「お気づきの通りだと……思います。喉仏は……釈迦如来の坐す姿に似ていると言われていますから。そして釈迦如来の領域は、霊山(りょうぜん)界です」

「霊山界……紫水 明鏡か……だが、特定の本尊はないと言っていなかったか、回向?」

 蓮の言葉に、僕が答える。

「法王という呼び名が、それを意味しています。そして、持経者であるという事も……です。そうですよね?」

 そう回向に訊ねると、回向は、ああと頷いた。


 僕は、回向と目線を合わせたまま、言葉を続ける。

「説法時の住職のあの言葉こそが、気づきを得る大きなものであると、蓮も羽矢さんも気づきましたよね。本地垂迹……ですが、ここは神仏分離に於いてのものとして、お答え頂けませんか。だから……僕に訊ねたのですよね?」

 回向は、二度、小さく頷きを見せるとこう答えた。


「ああ。それは……垂迹神で明かされる事……天地開闢の根源……つまりは神生み、国生み……そして、天孫降臨に於ける神として表されているからだ」

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