第42話 本意
本体を……破壊する……。
そう言った蓮と羽矢さんは、同時に床を強く踏み締めた。
「いいか……羽矢」
「ああ、いつでもいいぞ、蓮」
蓮と羽矢さんは、じっと前を見据え、身構えた。
「じゃあ……」
蓮の手が前方へと向く。
「解除する」
蓮がそう口にし、結界が解かれる。
結界が解かれた途端に、もの凄い風圧と共に、大量の破片が土埃を交えて飛んできた。
蓮と羽矢さんは、大きく腕を振り、飛んでくる破片の方向を左右に変え、ぶつかる事なく擦り抜ける。
暫くの間、その状態が続いた。
僕たちを間に、左右に飛ばされる破片が、壁に当たってドンドンと大きな音を立てる。
あまりにも大きな音に壁を見ると、破片は壁に突き刺さっていた。
次々と飛んでくる破片が、幾つも壁に突き刺さり、壁まで破壊するような勢いだ。
……こんなのが当たったら……。
ぞっとする僕だったが、蓮と羽矢さんは、飛んでくる全ての破片を、左右に吹き飛ばしていた。
「体力勝負だな……蓮」
「ああ……倒れるなよ、羽矢」
「お前もな」
「ふん……回向なら、こんな事くらいじゃ息も切れないんだろうが、あの馬鹿……まだ高宮を見つけられねえのかよ。それよりも、こんな大きな音が響いているっていうのに、様子を窺いにも来ないとは、まったく……いい度胸してやがる」
「まあ、そう言うなよ。回向だって必死なんだから。まあ、こっちを片付けておけば、蓮……あいつに恩を着せられるぞ?」
「成程、それは悪くない話だ」
二人の会話には余裕が見られるが、表情は至って真剣だ。
飛んでくる破片は止む事なく、勢いを増し続ける。
こんな勢いでは、近づく事も出来ない。
……キリがない。
そう思ったが、次第に飛んでくる破片の量が減ってきていた。
蓮が呟く。
「もう少し……」
蓮の手が大きく動く。
どっちの力が働いたのか、風圧が更に強くなった。
また何かが飛んでくる。
だが、それは壁に刺さる事なく、床に転がった。
脇を転がっていくものに、目線が向いた。
……これ……骨……。
バラバラと、脆くも崩れた骨が、集まるように床に転がっていく。
「……もう少しだ」
蓮のその言葉に、棺の中にあった骨を、こちら側に引き寄せているのだと分かった。
蓮の笑みを交えた声が響く。
「来た。羽矢……!」
「任せとけ……!」
羽矢さんの手が何かを掴むように動いた。
その瞬間に風が治まり、破片も飛んでくる事がなくなった。
「捕まえた」
そう言ってクスリと笑う羽矢さんは、一欠片の骨を手にしていた。
……喉仏だ……。
「さて……」
嵐のようだった状況が治まり、蓮が先に穴へと向かった。
僕と羽矢さんも蓮の後について、穴へと向かう。
蓮は、大きく開いた穴の中を、屈みながら覗き込んだ。
クスリと笑う蓮の手には、宝剣が握られていた。
……いつの間に……。
だけど、破壊されていない。
一体……どういう事……。
手にした宝剣を見せるようにも、穴の中を覗き込みながら、蓮は言った。
「早くしろよ。折角の機会だからな……。少々、荒れてしまったが、『殿』に招待してやるよ……お前も殿上には興味あるだろ? だから早く上がって来いよ……」
続けられた蓮の言葉に羽矢さんは、少し呆れた顔を見せて、ただ驚くだけの僕を振り向くと、小首を傾げて笑った。
「紫水 明鏡……?」




