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処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
第一章 尊と命
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第40話 元凶

「正解」


 そう言って蓮は、部屋へと向けた指をパチンと弾いた。


 ゴゴゴと地底から鈍い音が伝わってくる。

 部屋の中央から描かれた円環に、強い光が宿り、そこから亀裂が入る。

 バリッと大きな音と共に、床が割れていく。

 蓮が割れた床を掴むように手を動かすと、瓦礫となった床が粉となって消える。

 同時に放たれた光が消えると、床には大きな穴が開いていた。


 蓮は、ゆっくりと歩を進め、穴へと向かった。

 僕と羽矢さんも、蓮の後について穴へと向かう。


「……どうして……気づいたんだ?」

 穴の中を見つめながら、羽矢さんは蓮にそう言ったが、蓮が答える前に羽矢さんが自分で答える。

「気づかない方がおかしい、か……そうだな」

 羽矢さんは屈むと、穴をじっと見つめ、再度、口を開く。

「墓が何処にもない……これで納得だよな……」

 そう答えると羽矢さんは、深い溜息を漏らした。


 気が重くなるのも当然だ。

 穴の中には棺があったのだから……。


「おそらく本体はこの棺の中だ。開けるか?」

「やめてくれよ……蓮……そう訊くって事は……容易(たやす)く開けられねえって事だろう」

「正直、手に負えるかどうかは分からない」

 蓮がそう口にすると、羽矢さんはハッとした顔を見せた。

「……総代」

「羽矢?」

 羽矢さんが蓮の目をじっと捉える。

「総代も言っていたな……お前のその言葉……」

「ああ……そうだな……」


 確かに……当主様は言っていた。

『これが(まこと)ならば……私の手に負えるかな……?』


 これが……真。

 棺がここにあるという事が……真……。


「……だけど……羽矢」

 蓮の言葉に羽矢さんは、ゆっくりと立ち上がる。

「……ああ」


 ふふっと笑う声が聞こえた気がして、僕は後ろを振り向いた。

 だが、そこには誰もいない。

 回向の高宮を探す声が、遠くから聞こえる事に、その笑う声は回向じゃないと分かっただけに、気の所為かとも思ったが……。

 ふいに明鏡の顔が浮かんだ事に、嫌な予感を覚えずにはいられなかった。


 その嫌な予感に拍車を掛けるように、ガタガタと音がし始め、棺が揺れ始めた。


「……蓮」

 羽矢さんの表情に緊張が見える。それは蓮も僕も同じだった。

「依……絶対に俺から離れるなよ。もし……離れたとしたら、その時は羽矢を呼べ」

「蓮……」

 ……まるで……消えてしまうかもしれないと言っているみたいだ。


 嫌だ。

 そんな事……絶対に嫌だ。

 僕は、蓮の衣の裾をギュッと掴んだ。

「依……」

「離れません……絶対に」

 蓮は、静かに笑みを見せると頷き、羽矢さんも、僕に笑みを見せて頷いた。


 棺の揺れが次第に大きくなり、ガタガタと響かせる音も大きくなる。

 その揺れと音が恐怖を煽るが、もう後に引く事は出来ないだろう。


 痣が消えず、当主様は、部屋の中で一人闘っている。

 この状況は、その事に繋がっている事なのだろう。

 それを蓮は、初めから分かっている。だからあんな事を言ったんだ。


 大きく揺れ動く棺を見据え、蓮は言う。

「どの道……進まなければならない道だ。悪いな、羽矢……道連れだ」

「ふん……何年、行動を共にしていると思っている。そんな事、承知の上だ」

 羽矢さんも棺へと目線を向けながら、蓮に答えた。


 蓮の手が棺へと向いた。同時に羽矢さんが数珠を握る。

 緊迫した状況の中、それでも羽矢さんはクスリと笑う。

 そして、羽矢さんが言った言葉に、蓮は笑った。



「道連れの相手が蓮、お前なら……その先が地獄だろうと悪くはない」

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