第39話 神殿
僕たちは、羽矢さんの使い魔に乗り、高宮の元へと向かった。
もの凄い速度で移動する使い魔に振り落とされそうになるが、蓮の力強い腕に支えられる。
部屋の扉を破るように、使い魔と共に飛び込んだ。
部屋に飛び込むと、真っ先に回向が使い魔から降り、高宮を探す。
「右京……!!」
回向の呼び声が響き渡るが、高宮の姿はそこにはなかった。
「右京!! 何処だ! 何処にいるっ……!」
血相を変えて高宮を探す回向だったが、蓮は慌てる様子もなく、部屋の奥へと進んだ。
「……蓮」
蓮の様子を窺いながら、羽矢さんが後をつく。
蓮は、僕たちが初めにここに来た時に、高宮が座っていた場所にそっと手を触れた。
部屋に高宮がいなかった事で、回廊の方から高宮を探す回向の声が響き渡っている。
その声の様子からも、焦りを見せている回向を他所に、蓮は冷静に部屋の中を確認するようにも、ゆっくりと歩き回っていた。
「おい……蓮……」
羽矢さんの声に、ようやく蓮は足を止める。
蓮は、ふうっと長い息をつくと、ようやく口を開いた。
「本体じゃなくて形代ね……まあ、形代があれば、それだけで十分ではあるが……要は依代だからな。降臨させればいいのだろうが……」
「だが、本体があるのも分かってる訳だろ。それでも、持っているのが形代って事は」
「ああ。本体じゃ持ち切れないんだよ。成就物なら尚更だ。霊力が強過ぎる。逆に形代を媒介に、置く場所によっては、霊力を操る事も出来るという訳だ」
羽矢さんの言葉に被せて、蓮はそう答えた。
「形代を媒介に……か」
蓮と羽矢さんは冷静だったが、表情に翳りが見える。
「あの龍……昇ろうとしているのに昇れなかっただろ。おそらく、あのままでは昇れない」
「……ああ。父上が祓おうとした時に現れた龍も、同じ動きを見せていたな」
「法力を使っているなら天へと昇る。紫水 明鏡……あいつが持経者なら、それは出来ない事じゃない」
「護法善神……か」
「普通ならな」
「……成程」
蓮は、羽矢さんの言葉に頷くと、僕の腕を引き、部屋を出るように扉の方へと向かった。
「おい、蓮」
「羽矢、お前もこっちに来ていた方がいいぞ……」
ニヤリと笑う蓮に羽矢さんは、少し呆れたような顔を見せた。
蓮の指が部屋の中へと向いた。
「巻き込まれたくなかったら……な?」
部屋の四角から光が天井へと伸び、その光が天井に辿り着くと向きを変え、弧を描いて中央で繋がり合う。
四方から中央に集まった光が円環を作り、床に広がった。
「蓮……お前ね……」
羽矢さんは、蓮の隣に立つと、長い息を漏らした。
「界を定めるなら、初めに言っておけよ」
「見ていれば分かるだろーが。俺は無駄に歩いていた訳じゃねえ」
「分かるかよ。お前、ここを何処だと思っている? 普通、こんなところでやるとは思わねえだろ」
「こんなところ?」
蓮は、羽矢さんの言葉を拾って聞き返した。
「なんだよ、蓮?」
意味ありげな蓮の表情に、羽矢さんは眉を顰める。
「この状況で考えてみろよ。持ち切れない本体は、何処に置くと思っているんだ? 羽矢」
「うわ……お前、ホント最悪。性格が歪んでなければ、そんな姑息な手段、思い浮かばねえ」
「うるせえな、俺がやった訳じゃねえだろーが! いいから答えろ」
「普通なら、寺か神社に本体は置くものだ。だが、奴には寺どころか庵もない」
「寺か神社、ねえ……? 神聖なる処って訳だよな? 国主は神も同然。その神が棲むところ……つまりは……」
ニヤリと笑う蓮。羽矢さんが言葉を繋げた。
「『神殿』」




