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処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
第一章 尊と命
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第37話 性相

 明鏡は、自身の衣にスッと手を滑らせた。


「その色を変えても……ね……?」


 紫衣を塗り替えるように、暗い色が紫衣を染めていく。


 ……黒衣。

 クスリと得意げにも見せた笑みは、羽矢さんに対抗しているようだ。

 まるで……自分も死神であると言うように……。


 三界を有する者……その救護も自在……法を操る法王。



「ふ……そう来なくてはな」

 羽矢さんは、興味深そうに笑みを返す。

 明鏡は、河原に近づくと、神祇伯と住職が乗る舟をじっと眺めた。

 神祇伯も住職も、明鏡が事を起こす事を待っているようだった。

 ……この河原で…… 一体、何をしようというのだろう……。


 羽矢さんが明鏡の隣へと歩を進める事に、大丈夫なのだろうかと不安になったが、蓮が僕を振り向いて頷きを見せた事に、何か起こった時の策はあるのだと思った。


 明鏡の手が河原へと向き、水を掬い上げるように下から上へと動きを見せた。

 水面が小さな波を立て始める。

 明鏡はゆっくりと水面をなぞるように指を動かし、その仕草を何度か繰り返した。

 その仕草が繰り返される度に、波が大きくなっていく。

 水面を見つめ、手を動かしながら、明鏡は口を開いた。

 明鏡が口にしたその言葉が、耳に馴染んでいたものであった事に、納得とはまた違っていたが、理解するには易しかった。


「国の中心としたその主要部には、門を隔てて寺がありました。その思想は、あなた方のように浄界への道筋を示すものではなく、そもそもの人という存在の概念を示すものです。(げん)()(ぜつ)(しん)()(しき)(しょう)(こう)()(そく)(ほう)……それはあなた方も理解している事とは思いますが、心というものを知る事が出来なければ、(さと)りにも辿り着けない……争い事の絶えない世には、人という存在の概念を正す事……その手立てがこの道に繋がったのだと僕は思っています」

「……成程。理解に易しいな」

 羽矢さんはそう答えて、静かに頷きを見せた。


「……ですが、弔うという手立てはまた別の話……死した者の体は打ち捨てられ、ただ朽ち果てていくのを待つばかり……無惨にも朽ち果てていくその器が鬼と化すのも、その様を目にする事が自然であったからでしょう。人の姿とは到底思えない、その姿を見る事が、恐怖を煽ったに過ぎません。地獄というもの……それ自体もまた、同じ意味を示すのでしょう。そのような事よりも……そもそも都合のいい解釈には、矛盾が生じるものです。その矛盾に抗う為に、存在現象の有り様で区分するのも、一つの方便というものではないでしょうか」

「……否定はしないがな」

 明鏡の手が、河原を切るように大きく振られた。

「まあ……僕は、その存在自体も認めたくはありませんけどね……」


 皮肉な言い方だった。


 河原の水が泡を膨らませ、ボコボコと次第に大きな音を弾けさせる。

 明鏡は、冷めた目でその様を見つめていた。


 ブワッと河原の水が噴き上がり、龍が姿を現した。

 ……これは……。

 あまりの驚きに、僕は息を飲んだ。


 当主様が祓おうとした時に現れた龍と同じだ。

 来生の魂をも飲み込み、前聖王の魂にも執着していた……。


 明鏡は、その姿を示すと、僕たちを振り向き、クスリと笑って言った。



「ご紹介しましょう。()です」

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