第34話 懺法
明鏡の口から吐き出された言葉は、剣を突き刺すように回向の胸を貫いた。
それは。
同じ法力を使った故の明暗。
回向の法力が届かず、高宮を守る事が出来なかった……それは事実であるだけに、明鏡の言葉を完全に否定出来ないのは、その後悔が大きいものだからだろう。
回向にしても、高宮にしても、その経緯をはっきり答える事はなかったが、互いの思いを共有していたのは気づいていた。
寂しげな表情を見せて言った、高宮のあの言葉は。
『その願いが叶うなら死んでもいいと思う事に……報われるものなどないと知らされるのは……遺された者なのでしょうね……』
高宮は、自身の命を覚悟の上で差し出していた。
だけど高宮は、回向の所為で自身が命を落としたとは思っていない。
だがそれでも、高宮のそんな思いを分かっていながらも、回向は自分を責めずにいられなかったんだ。
「高宮 右京を殺したのは、あなたでしょう?」
明鏡の言葉に、回向は声を詰まらせた。
回向は、それを否定する事は言い訳にしかならないと、口を閉ざしたのだろう。
そんな回向の様子に、明鏡は楽しげにも笑みを見せている中、神祇伯が住職へと目線を送る。
住職は、返答の代わりに瞬きをもって返した。
「羽矢」
少し間を置くと、住職は羽矢さんを呼んだ。
「承知」
羽矢さんはそう答えると、ニヤリと口元を歪ませて笑みを見せ、回向に向けられている剣の先に立った。
「……羽矢」
守るように立った羽矢さんの背中を見つめる回向を、肩越しに振り向く羽矢さんは、穏やかな笑みを見せる。
そして羽矢さんは、蓮へと目線を向けた。
「蓮」
「ああ。いつでもいいぞ、羽矢。お前が前を行ってくれないと、守るもんが出来ねえからな」
「承知……」
羽矢さんは、クスリと笑みを漏らすと、明鏡に目線を向けて言葉を続けた。
「元より国を統治していた神は、国譲りを承諾していた地主神。開山し、開祖が立ち、寺が開かれるが、地主神を守護神として祀る。神仏混淆の始まりだ。祭神の名は『山王』……つまりは権現だ」
「それがどうだと言うのですか? 今は……」
明鏡は、話を掏り替えられたと思っているのだろう、だが、明鏡の言葉を遮って、蓮が言う。
蓮の言葉は、話を掏り替えた訳ではない事をはっきりと示す。
「逆に問う。高宮 右京を殺したのは、本当に回向か?」
蓮の言葉に、明鏡の表情は変わらなかったが、続けられた羽矢さんの言葉に、目が動いた。
「自身でも示しているように、お前が持経者なのは分かっていた事だ。お前はそれをどう使った? 守護的であり、攻撃的でもある……経文を書き写し、水辺に棄て、罪穢れを祓う……」
水辺に……棄てる。
撫物棄却のように……。
あの時、河原で神祇伯が口にした言葉が頭に浮かんだ。
『正しく混淆だな……だが、今の私には適宜している』
重なっているものは、河臨法だ。
当主様が河原に広がった人形に穢れを移し、神祇伯が河原に沈めた……なのに、当主様の体には痣が残ったまま、消えていない。
羽矢さんの足が、一歩前へ踏み出された。
明鏡に詰め寄るように、蓮も歩を踏み出す。
そして、羽矢さんは明鏡を見据え、言葉を続けた。
「滅罪経を……だ」




