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処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
第一章 尊と命
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第34話 懺法

 明鏡の口から吐き出された言葉は、剣を突き刺すように回向の胸を貫いた。


 それは。

 同じ法力を使った故の明暗。


 回向の法力が届かず、高宮を守る事が出来なかった……それは事実であるだけに、明鏡の言葉を完全に否定出来ないのは、その後悔が大きいものだからだろう。

 回向にしても、高宮にしても、その経緯をはっきり答える事はなかったが、互いの思いを共有していたのは気づいていた。


 寂しげな表情を見せて言った、高宮のあの言葉は。

『その願いが叶うなら死んでもいいと思う事に……報われるものなどないと知らされるのは……遺された者なのでしょうね……』


 高宮は、自身の命を覚悟の上で差し出していた。

 だけど高宮は、回向の所為で自身が命を落としたとは思っていない。

 だがそれでも、高宮のそんな思いを分かっていながらも、回向は自分を責めずにいられなかったんだ。



「高宮 右京を殺したのは、あなたでしょう?」



 明鏡の言葉に、回向は声を詰まらせた。

 回向は、それを否定する事は言い訳にしかならないと、口を閉ざしたのだろう。

 そんな回向の様子に、明鏡は楽しげにも笑みを見せている中、神祇伯が住職へと目線を送る。

 住職は、返答の代わりに瞬きをもって返した。


「羽矢」


 少し間を置くと、住職は羽矢さんを呼んだ。


「承知」


 羽矢さんはそう答えると、ニヤリと口元を歪ませて笑みを見せ、回向に向けられている剣の先に立った。

「……羽矢」

 守るように立った羽矢さんの背中を見つめる回向を、肩越しに振り向く羽矢さんは、穏やかな笑みを見せる。

 そして羽矢さんは、蓮へと目線を向けた。

「蓮」

「ああ。いつでもいいぞ、羽矢。お前が前を行ってくれないと、守るもんが出来ねえからな」

「承知……」

 羽矢さんは、クスリと笑みを漏らすと、明鏡に目線を向けて言葉を続けた。


「元より国を統治していた神は、国譲りを承諾していた地主神。開山(かいさん)し、開祖が立ち、寺が開かれるが、地主神を守護神として祀る。神仏混淆の始まりだ。祭神の名は『山王』……つまりは権現だ」

「それがどうだと言うのですか? 今は……」

 明鏡は、話を()り替えられたと思っているのだろう、だが、明鏡の言葉を遮って、蓮が言う。

 蓮の言葉は、話を掏り替えた訳ではない事をはっきりと示す。


「逆に問う。高宮 右京を殺したのは、本当に回向か?」

 蓮の言葉に、明鏡の表情は変わらなかったが、続けられた羽矢さんの言葉に、目が動いた。


「自身でも示しているように、お前が持経者(じきょうしゃ)なのは分かっていた事だ。お前はそれをどう使った? 守護的であり、攻撃的でもある……経文を書き写し、水辺に()て、罪穢れを祓う……」


 水辺に……棄てる。

 撫物棄却のように……。


 あの時、河原で神祇伯が口にした言葉が頭に浮かんだ。

(まさ)しく混淆だな……だが、今の私には適宜(てきぎ)している』


 重なっているものは、河臨法だ。


 当主様が河原に広がった人形(ひとかた)に穢れを移し、神祇伯が河原に沈めた……なのに、当主様の体には痣が残ったまま、消えていない。


 羽矢さんの足が、一歩前へ踏み出された。

 明鏡に詰め寄るように、蓮も歩を踏み出す。

 そして、羽矢さんは明鏡を見据え、言葉を続けた。



滅罪(めつざい)経を……だ」

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