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処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
第一章 尊と命
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第26話 真偽

「善か悪か……ですか」


 明鏡は、満足そうにもふっと笑みを漏らし、目を伏せる。

 相手の感情が自身に対して、良くは向いていない事を知りながら、目線を一箇所に留めないのは、やはり余裕の表れなのだろう。

 一瞬でも逸らした目線が隙を見せるところだが、敢えてそうしている事が、逆に相手を自身の懐に飛び込ませる道を与えている……だが、回向だけではなく、蓮も羽矢さんもそんな安易な思考は()うに捨てている。



「では……その処から逃れるにあたり、僕が自らが出てくるよう諭してみましょうか」

 明鏡は、門へと目線を向けながら、言葉を続ける。

「そこから出て来るのであれば、(ほっ)するものを授けましょう。今直ぐそこから離れなければ、与える事はしません。ですから……」

 明鏡は、企みのある笑みをクスリと漏らして言った。


「そこを離れて下さい」


 そう言葉が発せられると、吹き上がった炎の中から、バラバラと骨が飛び出して来た。

 その瞬間に、羽矢さんは法衣の袖をバサリと翻して黒衣に変え、回向は檜扇を手にした。

 高く飛び散った無数の骨が空を舞う。


 ……下界は欲界。

 その欲望が、その器を、その魂をその場に留まらせる……。

 これが……怨念の正体だと言わんばかりに。

 羽矢さんと蓮が言っていた事を、目にしているみたいだ……。


『蓮……ずっと不可解だったんだよ』

『ああ。分かっている。呪殺される側の者は、その命と引き換えに『神』になれると約束される……だろ』



 明鏡が口にする言葉が、全ての導きを手元に収めるように流れる。

「欲したものをそのまま授けるよりも、望むものを遥かに満たすもの……それ以上を足して与えましょう」

 空に舞った骨へと導きを示すように手を差し出す明鏡。

 羽矢さんと回向は、身を構える。


 僕は、目にしているものが、言葉となって頭の中で理解してしまう事で、言葉の重さに胸が苦しくなった。

 そんな僕の心情に気づき、肩に置かれた蓮の手が僕の心を抑えるように、グッと力が込められる。

 蓮を振り向く僕は、蓮の目線が羽矢さんと回向にある事に、抱えた思いが同じであり、その思いを晴らす事を二人に託しているんだと思った。


 舞いながらゆっくりと、骨が降り落ちて来る。

「羽矢!」

 回向の呼び声と同時に羽矢さんが、降り落ちて来る骨を掬うように手を伸ばした。

 導く道を示す手は、羽矢さんも明鏡も同じに天へと向いていて。

 ……それでも。

 骨が降り落ちて来る先は、明鏡の方に向いていて、回向は、その方向を変えるように檜扇を振った。

 檜扇から放たれる炎が、欲望を膨らませる骨を包んだが、その炎を直ぐに擦り抜け、迷う事なく明鏡の元へと向かう。

 明鏡は、クスリと笑みを漏らし、口を開いた。


「欲したものを授けると諭して、欲したものよりも遥かに満たすものを与える事は、三界から離れさせた事に対しての……」

 三界を有する者。

 言葉の導きによって、救護も自在……その法を操る法王……。

 そこが地獄であると示し、そこから離れる為の方便は、安楽を与える救済になるのだろうか……。


 降り落ちる骨が導かれる道を求めたのは、明鏡の元だった。

 明鏡は、口元には笑みを見せていたが、その目には笑みがなかった。


 羽矢さんと回向を冷ややかな目で見つめながら、明鏡はこう言葉を続けた。



「虚偽になりますか?」

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