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処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
第一章 尊と命
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第25話 法王

 法衣を纏った回向を見つめる明鏡は、満足そうな表情を見せていた。

 ……不快な顔をするのかと思っていた。

 僕の思いに反して見せたその表情に、僕は明鏡に不信感を募らせる。

 まるで、これで対等に話せるといった表情だ。

 僕のそんな思いと重なって、ガタガタと門を揺らすようにも響かせる音が、不穏さを増してくる。

 それでも、蓮と羽矢さんの、門がどんなに不穏な音を響かせようとも、少しも動じる事のない様子に、僕の不安は抑えられていた。


 明鏡は、騒がしくも音を立て続ける門へと目線を動かした。

「ならば……」

 ゆっくりと口を開いた明鏡は、瞬きをすると、目線を回向へと戻す。

 同時に、ボンッと破裂するような音と共に、門の上部から火が吹き上がった。

「お前……」

 回向の目が、鋭さを見せて明鏡を捉えた。


『弔う事なく、無惨にも散乱した骨は、もうどれが誰の一部かも分からない。それでも繋ぎ合わせて一体としたのは、誰の代わりだ?』


 あの中には、弔われず、拘束されたようにも骨が残されている。


 明鏡は、言葉を発する事なく、ただ、表情を変化させ、不遜にも問うような目を向けていた。

 回向は、その目線から目を逸らす事はなかったが、言葉を続ける事はなかった。

 無言の問答。

 それが行われている事が、その表情だけで伝わってくる。

 小首を傾げるその様に、相手の表情に言葉が見える。

 その表情の変化を見据える回向は、口にする言葉は頭に浮かんでいるようだ。

 そもそも問答は、問う側に対して理に敵う答えが返ってくるまで続くのだから。


 互いに重なり合う目線は、一方は、嘲笑さえ見える余裕さを表し、一方は、言葉あるところではあるが、簡単に吐き出す事を拒み、それでも言わざるを得ない状況の悔しさを、飲み込んでいるように見えた。

「……回向」

 言葉なく明鏡を見据える回向の肩に、羽矢さんがそっと手を置いた。


 回向は、目線を動かす事なく、静かに答える。

「……構うな。ただ……不快なだけだ」

「……そうだな。だが……それを口にしたからといって、俺たちに策がなくなる事もない」

「分かっている」

 羽矢さんは、回向から手を離すと、二人の様子をじっと窺う。


 回向は、冷静さを取り戻すように、目を伏せ、深く息をついた。

 そして、目線を明鏡に戻すと口を開く。

「明鏡……自身が持つその領域には、元より邪鬼が棲みつき、惑わし、争いを生み、死を呼び込む。その処から連れ出すには、自らの意思をもって自らの足で抜け出す事を悟らせる。中に飛び込み、無理にでも手を引き、連れ出す事も出来るが、何故、その処から出なければならないのかを理解しようとしない者は、恐れを抱く事もなく、その処に留まる事だろう。燃え上がる炎に身を包まれ、その身を焼かれる事が何を意味するか……死を悟らせる事で、そこが地獄である事を明確にする。言葉の導きによって、救護する事も自在だろう。それが出来るのは、お前だけか。つまりは三界を有する者であり……」


 回向の言葉に、明鏡の口元に笑みが見えた。

「ならばお前は、善だと説くか、悪だと説くか……決めてくれよ……衆生の『尊』……」

 そう口にしながらも回向は、讃えているようには見えなかった。

 それでも、ただ淡々と並べた言葉は、皮肉でもなく、この状況を理解させる為の方便にも思えた。


 回向が続ける言葉に、明鏡の誘導が見えるようだったが、回向はそれを知りながらも、その言葉を口にしている事だろう。


「法王」

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