第23話 徒爾
「それならば今度は、本当にお聞きになってみるのは如何ですか……?」
明鏡の言葉に、蓮と羽矢さんは顔を見合わせる。
互いの目線を少しの間、受け止めると、同時に溜息をついた。
そして蓮は、明鏡へと目線を戻すと、口を開く。
「あのなあ……その前にお前さ、自分の話しかしねえけど、俺たちに聞く事、なんかないのか?」
そう言った蓮の後に、羽矢さんが言葉を続ける。
「そもそも、墓が掘り起こされて、何がなくなっていたのかも分かっているのに、なんでまた墓を見に神祇伯と回向が来たと思ってんだよ?」
「おまけに回向は、お前だと気づいていても、俺たちに何も教えなかった。それって……どういう意味だと思っている? お前だって知ってんだろ、回向の事は。だが残念だったな、お前が思っているよりもあいつ……性格悪いぞ」
……これって……どういう状況なんだろ……。
僕は、呆気に取られながら、蓮と羽矢さんを見つめていた。
なんか……全く……動じていない……けど……うん……? どうなっているの……?
「おい、蓮……それじゃあ、回向の立つ瀬がないだろ」
「俺は事実を言っている。なあ、そうだろ?」
蓮の声が門の方へ向く。
「……紫条……てめえ……」
「おや。仏の顔も三度までとはよく聞くが、神には直ぐに怒りを買うようだ」
「蓮、仏の寛容さに制限はねえぞ」
「どうでもいいから……早く助けろよ」
門の上部の連子窓から手を差し込み、回向が顔を覗かせる。
「助けて欲しいと言っていますが? それでも僕が不利でしょうか?」
明鏡の言葉に、苛立ちを露わにする回向の声が響く。
「よく見てみろよ! 馬鹿かてめえ!」
「神職者の言葉とは思えねえな」
「黙れ! 紫条! お前にだけは言われたくねえ!」
回向の怒鳴り声と共に、連子窓が破られ、回向が飛び出してくる。
だけど……。
「羽矢っ! さっさとお前の使い魔を解除しろ! 鬼どころじゃねえ! 蛇に食われてんだよっ!」
えー……。
思わず僕は、両手で顔を覆ってしまった。
回向と共に飛び出してきたのは、羽矢さんの使い魔で、その大蛇が回向を咥えていた。
「依。笑いたかったら笑っていいんだぞ」
蓮の言葉に、僕は顔を覆ったまま、言葉なく頷いた。
だけど……笑ってはいけない……。
羽矢さんは指を弾き、使い魔から回向を解放する。
地に降り立った回向は、衣についた汚れを払いながら、蓮と羽矢さんを睨んだ。
「仕方ねえだろ。使い魔だけ飛ばしても、こいつ見つけられねえし。どうやらお前に用があるみたいだったから、使い魔に逆にお前を追わせれば、捕まるかなと思ってね」
「羽矢……お前……右京に言ってねえだろうな?」
「うん。言いそうになっただけ」
羽矢さんはそう言って、にっこりと笑う。
「羽矢……お前ね。ここに来る事自体、右京には言ってねえんだ。親父と話したら、お前らに協力を頼むと言っていたって言うからな。ここに来る事は分かっていたし、まあ……それが身を守れる事になったのには礼を言っておくが」
「正直、そうしてくれたお陰で、案外早く見つかったけどな。それで? 神祇伯は?」
「親父は奎迦住職のところに行っている。門に投げ込まれた後、直ぐに、お前の使い魔が送ってくれたよ。ふん……」
回向は、明鏡へと目線を向ける。
「羽矢の寺院に門を開いた事が徒になったな。お前にとっては力を誇示する為だろうが……」
回向の目線がちらりと羽矢さんに向いた。
その目線を受けて、羽矢さんが口を開く。
「さっき聞かせて貰った話……続きにはなるか? ジジイは、遁世しているんだ。だからこそ開いた門なんだよ。この意味……お前なら分かるだろ?」




