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処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
第一章 尊と命
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第20話 遁世

 羽矢さんは、その場を後にし始めたが、僕と蓮は、直ぐに羽矢さんを追いはしなかった。

 高宮は、深い溜息をつき、肩を落とす。

 その様子を見兼ねた蓮が、高宮へと近づいた。

「……高宮」

 蓮の呼び声にも高宮は、目を伏せたままで、溜息を繰り返した。

「……私の問題を……背負わせ過ぎてしまいました」

「羽矢は別に、お前に怒っている訳じゃねえよ」

「答えを急いだのは、私ですから……力を借りるという事は、巻き込んでしまうという事……分かっていても、あなた方の顔しか浮かばなかった……」

「お前だけの問題でもねえだろ」

 蓮のその言葉に、高宮は顔を上げた。

「羽矢は、俺に同じ事を言ったよ」

「……紫条さん」

「お前だけの問題じゃないんだ……お前だけの問題じゃない」

 蓮の言葉に高宮は、表情を引き締めた。

「……私の方でも調べてみます。紫衣をつける事を勅許した者の事を」

「ああ……そうだな、お前も知っておいた方がいいだろう。依、行こう。羽矢の事だから、外には出ていないだろう。きっと待っている」

「はい」

 僕と蓮も場を後にし、羽矢さんを追った。


 羽矢さんは、やはり僕たちを待っていたようで、回廊で佇んでいた。

 整えられた庭園を眺めている羽矢さんに、僕たちは近づく。

 僕たちに気づくと羽矢さんは、ゆっくりと振り向き、静かに笑みを漏らした。

「羽矢」

「……蓮、悪かったな。ちゃんと話を聞く前に、出て来ちまった」

「いや……大体の事は察しはついている。それに神祇伯のところに向かえば、もう少し深い話に辿り着けるだろ」

「……言いそうになっちまったんだ」

「分かっていたよ。回向の事だろ。あの回向が操られるなんてな……」

「……ああ。それを言ったら、あいつ……また……自分を犠牲にするだろ。あの時とはもう立場が違う。守らなければならないものの大きさが、自身の目に見える範囲より遥かに広いんだ……自分の思いだけに向かって、善にも悪にも成り代われるなど……あっていい訳がない」

「……そうだな。指針であるべき存在……か」

「……ああ」

 羽矢さんは、深い溜息をつき、気持ちを落ち着かせているようだった。


「それにしても羽矢……」

 蓮は、ニヤリと笑みを向ける。

「なんだよ、蓮?」

「『俺がそんなに攻撃的に見えるか?』」

 揶揄うように言う蓮に、羽矢さんの顔が引き攣る。

「俺には見えるけどな? だってお前、執念の塊だろ?」

「蓮……あのな……」

 羽矢さんは、呆れた顔を見せたが、直ぐに表情を和らげて笑った。


「じゃあ、行くか。蓮、依」

 羽矢さんが先に歩を踏み出し、僕たちは、神祇伯の元へと向かった。



 陵に辿り着いた僕たちは、神祇伯の姿を探す。

 その姿よりも先に目に捉えられたのは、回向だった。

「やっぱりあいつ……先に来ていたか」

 蓮はそう言って、回向の元へと歩を進める。

 昨日の事もあり、父親である神祇伯に訊ねたのだろう。

 回向は、僕たちに気づくと、神祇伯を呼んだ。


「……子息」

 神祇伯から聞かされる言葉は、羽矢さんの予想通りだった。

 掘り起こされた墓は、骨全てを奪われた訳ではなく、喉仏だけが奪われていたという。

 事が事だけに、神祇伯の表情も深刻ではあったが、それだけに(とど)まらないのは、回向の表情を見ても分かった。

 神祇伯の目線が、羽矢さんに向けられる。

 神祇伯の口から明かされる話には、これまで歩んで来た道を振り返るものが原点であったと言うには、あまりにも苦しいものだった。



「奎迦に伝えてくれないか。官僧から離脱し、遁世(とんせい)した僧侶……奎迦が門を開くに、元となった者の後継が現れた……と」

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