第19話 無道
死者の置き場所……。
「門……ですか。それが死者の置き場所になっていると……その門は一体、何処に開かれていたのですか?」
「おそらく、門は何処にでも開く事が出来るのだろう。現に、俺の寺にその門が開かれていた」
「藤兼さんの寺院に……随分と攻撃的な話ですね」
「自らが向かって来る事はなかったがな」
「その姿を見たのですね。それが紫衣だったという訳ですか。では……前聖王の骨はそこにあるのでしょうか……?」
高宮の問いに羽矢さんは言う。
「あるかどうかは目にしてみなければ分からないが。なにせ、魂の導きは済んでいるんだからな。魂の反応は窺い知れない」
羽矢さんの言葉の後に、蓮が答える。
「今の段階で言える事は、国主が入るとされる陵に、入れて貰っては困るという事もあるんだろ」
「ああ、そうだな、蓮。あの様子を見る限り、それだけとは言えないようだ」
「……成程……この処から遠去けられ、命を狙われた身ですから、理解に難はありませんが……藤兼さん……死神の異名を持つあなた同様、死者の行き場所を決める事が出来る……そう考えてもおかしくはないという事でしょうか」
「ふん……それは不本意だ。だが、そういった解釈をするならそうだな……」
羽矢さんは、強い目を見せて、高宮に答えた。
「俺は『魂』を導くが、相手は『器』を自身の領域に拘束するようだ」
羽矢さんの言葉に、高宮は納得を示すように二度、静かに頷きを見せた。
「魂と器……ですか。その器が骨と化しても器だと……そうですか」
溜息混じりにそう答えた高宮に、羽矢さんは問う。
「魂の導きが済めば、残った骨には意味などないと思うか?」
「それは……どういう意味で言っているのですか?」
羽矢さんは、高宮に示すように、前を向いたまま、後ろ手に自身の頭の下をそっと指でなぞった。
その仕草に、高宮の表情に緊張が見えた。
それは、僕も蓮も直ぐに察しがついた事だった。
ぞっと背筋に悪寒が走る。恐ろしく思えて、体が震えた。
だから……骨を……。
「……喉仏……ですか」
そう答えた高宮に、羽矢さんは頷く。
「ああ、そうだ。喉仏と言っても、それは軸椎で、頭の下にある骨の事だ。その骨が仏の形に似ているからそう呼ばれる。その体……器に宿った仏という訳だ。それがあるから浄界への道筋も示される……その形が綺麗に残れば残る程にな……」
「……では……開かれていたという死者の置き場所とは……その者が持つ領域……それが地獄だと……?」
高宮の言葉に、羽矢さんの静かな怒りが目に表される。
「……地獄……ね……」
そう呟く羽矢さんの声に、高宮の表情が硬くなった。
死者への冒涜、死しても尚、安息など得られない……。
「ふん……名を重ねての地獄とは、あまりにも趣味が悪いだろ。そこに死神の名を重ねられるのなら尚の事、気分が悪い」
「どう迎え討つおつもりですか、藤兼さん」
「迎え討つ……? 随分と攻撃的な言い方だな。俺がそんなに攻撃的に見えるか?」
「それは……藤兼さん……危機的状況である事は確かでしょう? 悠長に構えている訳には……」
高宮の言葉を最後まで聞く事なく、羽矢さんは場を後にし始める。
「藤兼さん……!」
高宮の呼び声に、羽矢さんは肩越しに振り向くと、こう答えた。
「俺が相手にすべきは、人じゃない。その人の手によって落とされたのが地獄なら……救済に向かうだけだ」




