第18話 無縁
「だからなんだ」
表情は真顔だったが、蓮はあっさりとそう返した。
冷たくも言い放たれた言葉にも思えるが、それは自分には関係のない事だと突き放すものではなかった。
高宮は、少し困ったような表情を見せてはいたが、蓮が続けるだろう言葉に期待しているようだった。
高宮と真っ直ぐに目線を合わせながら、蓮は言葉を続ける。
「墓が暴かれるのは、今に限った事じゃない。それを懸念し、散骨でもして、骨も残すなと言い遺した者もあったはずだろう。高位であったなら尚の事だ」
「ふふ……問題にもならないと?」
高宮の目線が、蓮の思考を探るようにも動く。
蓮は、ふっと笑みを漏らすと、こう答えた。
「問題なのは、掘り起こされた事以前に、簡単に陵に入れた事だろ。墓が掘り起こされましたって、結果だけ言うけどな、それは掘り起こされた後に気づいているって事だろうが。遅いんだよ」
蓮の言葉で何かに気づいたように、高宮の目がピクリと動く。
「その物言い……何か……起きましたか?」
「はは。流石は勘がいいな」
そう言うと蓮は、羽矢さんへと目線を変えた。
羽矢さんは、少し不機嫌な表情で、高宮に答える。
「お前……紫衣を纏っている奴、心当たりないか」
「紫衣……ですか……?」
「ああ。回向は察しているようだが、居場所までは分からないようだ。俺の使い魔に追わせてはいるが、お前を捕まえた時みたいに簡単じゃねえ」
羽矢さんの言葉に高宮は、顔を引き攣らせる。
「藤兼さん……私は簡単に捕まった訳ではなく、追って来て貰いたかっただけですが?」
「お前の話は、この際どうでもいいんだよ」
「だったら、引き合いに出さないで下さい。悪意を感じますよ」
高宮は、呆れたように溜息をついた。そして、表情を変えると、羽矢さんに問う。
「それで……その紫衣とは?」
「残っていないか。国の関わりがあるだろう。紫衣を着ける事の勅許を与えた記録だ」
「分かりました。この座に就いて、まだ日も浅いので詳しくは知りませんが……瑜伽神祇伯であれば、直ぐにお答え出来るとは思いますが、生憎、墓が掘り起こされた事で、そちらに向かわせてしまいましたので」
「ああ、じゃあ、俺たちもそっちに行く。な? 蓮」
「そうだな。その方が早いな。そもそもお前も、俺たちをそっちに向かわせたかったんだろう?」
「まあ……そうではありますが、ちょっと待って下さい。墓が掘り起こされた事と、その紫衣……繋がっている話なのですか?」
高宮の言葉に、羽矢さんが答える。
「おそらくな。全ての神社、寺院に立ち入る事が出来る総代が、そこに気づかないとは思えない。社も堂もないと答えた方が自然だろ。それならば、紫衣を身につけられるのは逆に不自然だ。どういった経緯かは知らないが、紫衣が引き継がれていると考えた方が納得がいく。ジジイもある程度の事は知っているようだったが、継承はある時期で途絶えたと。それ以降、何処でどうやって誰に受け継がれたかまでは分からない」
「それで……何故、繋がると言うのですか……?」
怪訝な表情を見せる高宮。それでも何やら思う事はあるようだった。
「門が開かれていたんだよ。その門は……」
羽矢さんが答える言葉に、高宮が思った事が重なったようだ。
ハッとした顔を見せる高宮に、羽矢さんの言葉が流れる。
「死者の置き場所だ」




