ずっとこの処で
あれから数ヶ月後、回向は神社を権現から神明に変え、国主、高宮 右京を守護する事を誓った。
そして、国主の棲む国土を守護するという意味をもって、八雲は大社の宮司を務めている。
明鏡もあの処に寺院を仏塔と共に建立し、それぞれが身を隠す事もなく、その存在を示していた。
「蓮、聞いたか?」
いつもの事ながら早朝に羽矢さんが来て、僕の部屋で蓮と話している。
「ああ、弥勒の寺院の本尊の事だろ? 回向が言っていたな、釈迦如来だって」
「前聖王への恩返しの意味もあるのだろう。樟陰家の分流のあの僧侶たち、弥勒を和尚にと、力を添えているってよ」
「そうか。それは良かった」
「分流で出家……彼らに欲はなかったのかもな。樟陰という俗名は、捨てる事が出来たんだからな」
「まあ……弥勒にとって、何が一番いいのか模索した結果でもあるんだろ」
「ああ、そうだな」
「それよりも……」
「うん? なに? 蓮」
羽矢さんは、満面の笑みを見せる。
「お前……また住職の説法から逃げて来たのか?」
「そんな訳ねえだろ! ちゃんと最後まで聞いて来たところだ。ところで……」
羽矢さんは、意味ありげな目線を蓮に向ける。
蓮は、困ったようにもふっと笑みを漏らした。
「まったく……仕方ねえな」
蓮が椅子から立ち上がると、僕たちも立ち上がった。
僕たちは外へと出る。
青い空の向こうに、白い雲が次々と浮かんでくる。
僕たちは、その様を見つめていた。
「八雲……か」
羽矢さんは、雲を見つめながら呟くように言った。
「神も仏もいなくなった処……ね。仏も神も同じに神……神仏混淆、お前ならでは、だな。蓮」
羽矢さんは、蓮を振り向くとこう言った。
「いなくなったんじゃなくて、送っていたんだろ?」
その言葉を聞く蓮は、ふっと笑みを漏らす。
「さあな」
蓮は、惚けるようにそう答えたが、僕も羽矢さんも分かっている。
そして僕たちが外に出たのも……。
真っ青な空に浮かぶ白い雲が、風に流れてこちらへと来るようだ。
「蓮」
当主様の声が聞こえ、僕たちは当主様を振り向く。
「直ぐに行きます」
蓮が足を踏み出し、当主様への元へと向かう。
僕と羽矢さんは、顔を見合わせて笑みを見せると、蓮の後を追った。
「依」
蓮が僕を振り向き、手を差し伸べた。
僕は、その手を追って、掴む。
神仏混淆。
僕は……。
「行こう。神を迎えに」
この処が大好きだ。




