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処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
エピローグ
181/181

ずっとこの処で

 あれから数ヶ月後、回向は神社を権現から神明に変え、国主、高宮 右京を守護する事を誓った。

 そして、国主の棲む国土を守護するという意味をもって、八雲は大社(おおやしろ)の宮司を務めている。

 明鏡もあの処に寺院を仏塔と共に建立し、それぞれが身を隠す事もなく、その存在を示していた。


「蓮、聞いたか?」

 いつもの事ながら早朝に羽矢さんが来て、僕の部屋で蓮と話している。

「ああ、弥勒の寺院の本尊の事だろ? 回向が言っていたな、釈迦如来だって」

「前聖王への恩返しの意味もあるのだろう。樟陰家の分流のあの僧侶たち、弥勒を和尚(かしょう)にと、力を添えているってよ」

「そうか。それは良かった」

「分流で出家……彼らに欲はなかったのかもな。樟陰という俗名は、捨てる事が出来たんだからな」

「まあ……弥勒にとって、何が一番いいのか模索した結果でもあるんだろ」

「ああ、そうだな」

「それよりも……」

「うん? なに? 蓮」

 羽矢さんは、満面の笑みを見せる。


「お前……また住職の説法から逃げて来たのか?」

「そんな訳ねえだろ! ちゃんと最後まで聞いて来たところだ。ところで……」

 羽矢さんは、意味ありげな目線を蓮に向ける。

 蓮は、困ったようにもふっと笑みを漏らした。

「まったく……仕方ねえな」

 蓮が椅子から立ち上がると、僕たちも立ち上がった。


 僕たちは外へと出る。


 青い空の向こうに、白い雲が次々と浮かんでくる。

 僕たちは、その様を見つめていた。

「八雲……か」

 羽矢さんは、雲を見つめながら呟くように言った。

「神も仏もいなくなった処……ね。仏も神も同じに神……神仏混淆、お前ならでは、だな。蓮」


 羽矢さんは、蓮を振り向くとこう言った。


「いなくなったんじゃなくて、送っていたんだろ?」


 その言葉を聞く蓮は、ふっと笑みを漏らす。

「さあな」

 蓮は、惚けるようにそう答えたが、僕も羽矢さんも分かっている。

 そして僕たちが外に出たのも……。



 真っ青な空に浮かぶ白い雲が、風に流れてこちらへと来るようだ。



「蓮」

 当主様の声が聞こえ、僕たちは当主様を振り向く。

「直ぐに行きます」

 蓮が足を踏み出し、当主様への元へと向かう。

 僕と羽矢さんは、顔を見合わせて笑みを見せると、蓮の後を追った。


「依」

 蓮が僕を振り向き、手を差し伸べた。

 僕は、その手を追って、掴む。

 神仏混淆。

 僕は……。


「行こう。()()()()に」


 この処が大好きだ。

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