表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
第四章 堂と廟
174/181

第38話 招魂

「最後の『みくじ』を引こうか」


 蓮の手が天へと向いた。



「お待ち下さい」


 神職者の中から声があがったが、声の主を直ぐに目に捉えられなかった。

 その声の主は、神職者たちが並ぶ後方から、前方へと出て来る。

 斎服は正装でもあるが、斎服には階級がなく、同じ色の斎服に身を包んでいても、彼から醸し出される威厳さは神祇伯に並ぶようだ。歳も同じ程であるのだろう。


 彼が蓮に一礼すると、蓮は無言のまま、掲げた手をゆっくりと下ろした。


「紫条宗家の御子息様とあらば、そのお力は重々存じ上げております。その宣託に、(たが)うものなどない事も承知致しております。代々受け継がれるお力は、神をも調伏し、式神という神を顕現する事が出来る……。神のお力を()い、願い賜う私共とは違い、神のお力を我が物として使われる事が出来るのは、紫条()()であるが故の事……」

「なにが……言いたい?」

 ……蓮の様子が変わった。

 声色は低く落ち、冷ややかに動いた目が、怒りを滲ませていた。


「……羽矢さん……蓮の様子が……」

「『宗家』……蓮が、特に言われたくない言葉だ。宗家でなければ、力など得られはしない、宗家であるから力を得る事が出来るのも当然、その血脈が力そのものであるのだから、持っていて当然……ってな」

「そんな……蓮は……」

「ああ、俺だって分かっているよ、依。蓮は蓮だ。宗家だからじゃない、蓮だから、だ」

「……はい」

「どうした? 依。重い返答だな。お前らしくもない、そこは断言出来るところだろ?」

「いえ……そういう事ではないんです」

 僕は、対峙するようにも向かい合う、蓮と神職者へと目線を戻した。

「あの方は……蓮も同様であると言わせたいのでしょう。聖王であるが故の証明も、宗家であるが故の証明も同じものであると……」

「ああ……そこか……。明らかなるものがあってこそ、という訳ね。聖王なら神剣、紫条宗家なら式神って?」

 羽矢さんは、ふうっと長い息をつくと、にっこりと穏やかな笑みを僕に見せる。

「忘れた訳じゃねえだろ? 依」

「羽矢さん……」


「蓮が式神を持とうとしないのは、そういう事だよ」

「ですが……それでは……あの方が言おうとしている事を否定する事は、ここまでやり遂げてきた事も否定する事になってしまうのでは……」

「依。見てみな」

 羽矢さんの目線が蓮に真っ直ぐに向く。



 ……蓮。

 蓮は感情をあまり表に出さない。

 そう……思っていた。

『俺が……紫条宗家の息子だからか?』

 そう言った時に見せた目は、何処か悲しげにも見えた。

 僕が勝手に、蓮との距離を感じていたからなのだろう。

 だけど……今は違う。

 あの時、僕は気づけなかっただけなんだ。

 蓮が何を思い、何を考えて、何の為に行動しているかという事を。



 再び蓮は、天へと手を向けた。

「言ったはずだ。この処には、神も仏もいないと」

 蓮の指が空を切る。

「但し……」

 (まばゆ)い程の光が広がり、空からパラパラと無数の符が舞い降りた。

 その符には文字が書かれている。だけど、神籤でも呪符でもなさそうだ。

 ちらりちらりと見える文字……。

 あれは……姓名……?

 羽矢さんの目線が、僧侶側へと動いた。僧侶たちは一斉に目を伏せ、両手を合わせる。

 無数の符が舞う中、蓮は、神職者を真っ直ぐに見つめて言葉を続けた。


「『祖霊』となれば……話は別だろ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ