第36話 正理
頃合いを見計らったかのように現れた者たちは、どうやら僕と蓮が通って来た洞穴から来たようだ。
これは……どうして……。
不思議に思う僕だったが、無意識にも蓮へと目線が動く。
口元に笑みが見える事に、蓮の計らいであった事に納得した。
羽矢さんは、そんな蓮の様子にふっと笑みを漏らすと、多少、呆れたようではあったが、どうやらこの状況に満足そうだ。
「まったく……次から次へと、一息つく暇も与えないってか? 蓮」
羽矢さんは、そうは言いながらも、この状況は元より望んでいた事なのだろう。
「ふん……だから言っているだろう? もう終わりにした方がいいってな」
「はは。それは、俺に言う事じゃねえだろ」
「まあな。その意向を聞き入れてくれるかは、これからってところだけどな」
クスリと意味を含めた笑みを漏らす蓮は、もう片方の洞穴へと目を向け、呟く。
「さて……そろそろかな……?」
洞穴へと入って行った明鏡が戻って来た。
だが、こちらへと向かって来るのは、明鏡一人ではなかった。
明鏡を先頭に、こちらへと来る者たちの数も多い。
明鏡があの洞穴へと向かって行ったのは、この者たちを連れて来る事だったというのか……。
洞穴から出て来ると、反対側の洞穴から来た者たちと、向かい合うように整列した。
この処に一斉に集まった事に、僕はただ驚いていた。
バサリと羽矢さんが衣の袖を振り、黒衣を法衣に変える。
全ての準備が整った……という事だろうか。
明鏡は、引き連れて来た者たちから離れ、僕たちのところへと一人戻って来たが、明鏡の衣が紫衣から黒衣に変わっている事に気づく。
……明鏡も……。
羽矢さんが眴をすると、明鏡は小さく頷いた。
黒衣を法衣に変えた羽矢さんに、紫衣を黒衣に変えた明鏡……。
そんな二人の様子を目にする僕は、明鏡も含めての計らいだと分かった。
集まった者たちが何者なのかが一目で見て分かるのも、纏う衣でもそうだが、抜けて来た洞穴が違う事でも分かった。
僧侶と神職者だ。
この頃合いで現れたこの者たちは、地の底に行く前に現れた霊や魂、そして鬼神でもなく、生身の人間だ。
本当の敵とは、生身の人間といったところなのだろうか。
それにしても……。
他勢に無勢といった状況ではあるが、それは霊魂や鬼神が現れた時と変わらない。
ただ違うというのは、奥底に隠した心意を霊魂や鬼神のように素直に表さないところだろう。
両方とも無表情である事に、どのような思いでここに来たのかは分からない。
だが、蓮の計らいとはいえ、ここに揃ったというのは、それぞれに何かしらの思惑はあるのだろう。
ただ単に、呼ばれたからと赴いたとは到底思えない。
向かい合う僧侶と神職者たちは、僕たちを間に同時に頭を下げ合っただけで、言葉は交わしはしない。
ただ向かい合い、互いを真っ直ぐに見つめ合ったままだ。
少し間が開いた後に蓮は、現れた者たちを迎え入れるように頭を下げた。
羽矢さんと明鏡も頭を下げ、僕も合わせて頭を下げた。
そして、皆同時にゆっくりと顔を上げる。
儀礼を重んじるような空気感が、表情を引き締めさせる。
だが……。
蓮は、静かな笑みを見せると、互いの真意を窺うかのように、こう言った。
「ようこそ。神も仏もいなくなった……この処に」




