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処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
第四章 堂と廟
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第33話 布石

「だから……お前も行け、回向」

「ああ。紫条……弥勒を頼む」

「分かっている。心配するな」

 蓮の言葉に回向は頷くと、この場を後にしていった。



「もういいぞ、羽矢、弥勒」

 離れた位置にいた二人を蓮が呼ぶ。

「ふう……息をするのもまずいかと思ったよ、蓮」

「なにを言っている。そこまで僧侶を阻んでいる訳じゃねえぞ。その処にはその処の、持つべき境界があるだけだ。それは互いに認めるべきものにもなるという訳だろ」

「分かっているって。だから俺も弥勒も、神剣を直視するのを避けたんだろ。それにしても……」

 言いながら羽矢さんは、辺りを見回した。

「習合され、同一とされた神仏を判然した、見事な遷座だ」

 雲一つない澄んだ空。陽の光の柔らかな暖かさを纏った、緩やかな風が心地よく流れていく。

「護法善神として勧請し、結界を張ったのなら、結界が破れたならば分離される。況してや、混淆が否定された処だ。そうなれば遷座は当然だろ。そのままにしていい訳がない」

「まあ……それはそうだが、よく分かったな? 蓮?」

 羽矢さんは、蓮の真意を窺うように、うっすらと笑みを見せる。

「ふん……よく言うよ。そもそも、来生が河原に現れた時に、黄泉との絡みを明らかにしたのはお前だぞ?」

「冥府の抜け道を突き止めろと、お前に言われていたからな。それが河原にあると突き止められたのは、お前のお陰だしな」

「……そうか。だがそれも羽矢……お前じゃなければ出来なかった事だ」

「まあ、お前にとって俺は、なくてはならない存在だからな?」

 ニヤリと笑う羽矢さんに、蓮はふっと笑みを返すと頷く。

「……そうだな」

「やけに素直だな、蓮。なんか逆に怖いな……」

「別になにもねえよ。八雲と話をつけるのは、大変だっただろうからな。たまには褒めてやろうかと思ってね」

「はは。そんな気遣いは無用だ。使い魔に追わせたら、直ぐに見つけられたし、なにより彼の理解を得るのは早かったからな」

「……そうか」

 ふっと笑みを漏らす蓮に、羽矢さんは少し困ったような顔を見せた。

「八雲……ね。成程。随分と前から知っていたって訳か。どうせお前の事だ、()うに策は講じていたんだろ? 逆手を()()()()時からかな……?」

 蓮は、横目で羽矢さんをちらりと見る。

「……さあな」

 惚けるような蓮の態度に、羽矢さんはクスリと笑った。



 サアッと流れる風が葉を連れてくる。風に乗る葉を、蓮の指がなぞるようにそっと触れた。葉はそのまま風に乗って流れていき、蓮は手を下ろす。

「然暁が遁世し、開山(かいさん)したこの処は、然暁にしても民間にしても、寄り縋る事の出来る安穏の処になるはずだった。だが……遁世したとはいえ、当時は廃仏毀釈の真っ只中……その混乱がこの処に向くのは分かりきった事だっただろう」

 蓮の目線が問うように明鏡に向く。その目線を受けて明鏡は、ハッとしたような表情を見せた。

「分かっていたんだよ、然暁は」

「……ああ……そうだな……」

 明鏡は、両手をギュッと握り締め、顔を伏せる。

「全ての悪が自分に向く事を望み、奪われる事で示したかったんだろう……」

 そう言うと蓮は空を眺め、ゆっくりと息をつく。

 少し言葉の間が開いた。


 空の遥か先を見るような目を向けながら、蓮の声が静かに流れた。



「天界の諸神は、地上に領域を作る。だが……十方界の諸仏は、地上に領域を作らない……ってな……」

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