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処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
第四章 堂と廟
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第32話 神明

「……感謝する。確かに……受け取った」


 回向の言葉に八雲は静かに頷くと、ゆっくりと立ち上がり、手を前に重ねてそっと目を伏せる。

「親父……いや、神祇伯と聖王が用意した新たな処……それは同等の大社(おおやしろ)になっている」

 そう言って回向は、八雲に符を差し出した。

「確かに賜りました」

 符を受け取ると、八雲は深く頭を下げた。

「深く感謝致します。では……そちらに向かいますので、私もこれで失礼させて頂きます」


 八雲は踵を返さずに回向へと体を向けたまま、小さな歩幅で後ろへと足をそっと引く。相手に直ぐに背を向けない姿勢、その身のこなしは優雅さを醸し出し、溜息が出る程の美しさを感じる。

 ……本当に……神をも重ねたような美しさだ。


「一つ……聞かせてくれないか」

 回向の呼び止めに、八雲は足を止める。

「どのような事を……でしょうか」

 回向は、少し躊躇いながらもこう口にした。


「黄泉の死神の事だ」

 回向の言葉に、八雲は穏やかな表情で静かに答える。

「お察しの通り、祖神(おやがみ)です」

「祖神……そうか……」

 回向は、静かに頷くと、蓮を振り向いた。

 蓮は、回向の目線を受け止め、分かっていると合図するように、頷きを見せる。

 八雲の目線がゆっくりと蓮に向き、互いに目線が合うと、八雲は蓮に向けて深く頭を下げた。


「地上に戻る縁を結んで頂けた事……深く感謝致します」

「国土そのものが神の魂……国魂神(くにたまのかみ)だからな、戻れるだろ?」

 それは当然の事だと、笑みを見せて八雲に答える蓮。八雲は目をそっと伏せたが、その表情には笑みが見えていた。きっと、蓮の言葉を嬉しく思ったのだろう。

 八雲は、深々と一礼し、この場を後にして行った。



 八雲の後ろ姿を見送る蓮と回向。蓮は、回向と肩を並べ、こう口にした。


「その神号も結び付きを奪われれば、祖神さえも奪われる……祖神とは、氏族の系譜に於いても、地位を成り立たせ、引き継がれるもの……それは天地開闢の根源までをも、大きく左右する……か」


 蓮が口にした言葉は、ずっと蓮が気に掛かっていた、高宮 来生が残した言葉だ。

「……紫条」

 回向が蓮を振り向く。

 蓮は、回向と目を合わせ、ふっと笑みを見せて言った。


「やっと……腑に落ちたよ」

「ああ……そうだな」

 回向も蓮に笑みを見せる。そして、手にした神剣を大切に抱え、八雲が去って行った方向へと向かって頭を下げた。


 ああ……そうか。あの方向は……。

 社の後に堂が建ち、参拝の順路が変わった処。

 八雲が去って行った方向は、元よりの順路であったのだろう。


「本当に……感謝する。樟陰 八雲」

 感極まる思いが、回向の声を震わせていた。

 蓮は、頭を下げたまま顔を上げずにいる、回向の肩をポンと叩いた。

「お前も行け、回向。整えるべき処があるだろう。天表(あまつしるし)に相応しく、権現ではなく、神明(しんめい)にして祀るべきだ」

 蓮のその言葉に、回向の複雑な心境が顔に表れる。

「それは……俺もやはり分離を……」


()()だ」


 回向の心情を読み取った蓮。遮るように強く響いた蓮の声に、回向は顔を上げた。


「回向……お前は誰の守護を務める? 親友でも幼馴染でも、想い人でもねえ、ただ一人のみを守るのは」

 蓮は、真剣な表情を回向に向けて、はっきりとした口調で言葉を続けた。

 続けられた蓮の言葉に、回向の表情が強さを取り戻した。



「全てに於いて平等に、全てを守る為の力の象徴で有り続ける、唯一の存在を守るという事だ」

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