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処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
第四章 堂と廟
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第30話 真正

 蓮と羽矢さんの言葉に、彼はしっかりと耳を傾けている。目を伏せ、うっすらと見せる笑み。そんな小さな所作も美しい。溢れ出すような品格は隠せはしないが、控えめな雰囲気を感じさせるのも、彼そのものの表れであるのだろう。

 元よりその地を治めていた、郡司(こおりのつかさ)の末裔……。

 姓が臣から朝臣に変わったというなら、永代続いている家柄だ。品格があるのも頷ける。


郡司(こおりのつかさ)……樟陰 八雲……」

 回向は呟きながら、思い返すように考え始めた。

「ああーっ……! 思い出した。お前、右京が神司をしていた時、あの神社に来ていた事あったよな?」

 蓮が片手で頭を抱え、これはダメだと溜息をつく。

「なんだよ? 紫条」

「……いや。同じ神職者とは思えねえなと思ってな……」

「おい、紫条。それを言うなら、お前も同じだからな。口の悪さは俺以上だろ」

「それ以前の問題を言ってんだよ……」

 蓮は、再び大きな溜息をついた。



 八雲は、優しげな笑みを見せながら、穏やかな口調で回向に答える。

「ええ、一度だけですが。確か……呪いの神社だと……」

 回向は、蓮を振り向き、じっと見つめる。

「なんだよ? 回向」

「……悪意……ないよな?」

 回向は、八雲を指差す。

「ないだろ。大抵の奴はそう答えるから安心しろ」

「嘘だろ」

「それよりもお前……人に向けて指差してんじゃねえよっ」

 蓮は、回向が八雲を指差す手を叩き落とした。

「痛ってえ……!」


 神祇伯が呆れた顔を見せ、大きな溜息をつく。

「私の用は済んだようだから、私はもう帰るぞ。回向……お前も宮司なら宮司なりの話があるだろう。身体機能だけではなく、心的機能もあるのだから十分(じゅうぶん)に使え」

「なんだよ……心的機能って。人を馬鹿みてえに言うな」

「いや、馬鹿だろ、お前。神祇伯は、頭使えって言ってんだよ」

 あっさりと答える蓮を、回向は横目で睨む。

「そのくらい分かってんだよ! 説明など求めてねえ」


「回向。交渉は済んでいるのだから、その証が何かは、お前に任せるぞ」

 そう言うと、神祇伯はこの場を後にし始める。

 過ぎ去って行く神祇伯に、明鏡と八雲は深く頭を下げた。



「証が何かは、分かっているだろうな? 回向」

 蓮の言葉に回向は、真顔になると深く頷いた。

「……ああ。勿論だ」

 回向は、八雲へと距離を縮め始めると、八雲もまた回向へと距離を縮め、二人は真っ直ぐに向き合った。


 羽矢さんと明鏡は、回向と八雲からある程度の距離を置き、見守るようではあったが、直視せず、二人とも目を伏せていた。


 互いが真っ直ぐに向き合うと、八雲が先に言葉を発した。

「時の移り変わりと……参じた際には、目を覆いたくなる状況に、お会いする事なく去りました」

「だから……呪いの神社と言ったんだな……成程、紫条の言った通りだな」

 回向は蓮を振り向くが、蓮は前を向いていろと、回向に合図する。


「はい。私が参じたのは、その時の一度だけでしたので」

「一度となったのは……右京……いや、祭祀者がその後、いなくなったからだろ。廃社同然となったあの神社には、呪詛だけが残ったんだ」

「ええ……知っています。勿論、その後の事も」

「……そうか。時の移り変わり、か……その時には、既に決めていたという事か?」

「いえ、そのような事ではないのです。元より来生様に……ですが、来生様は……」

「継承権を失ったから、だろ」

「……はい。ですが……国譲りは既に済んでおりました。これが……その証です」

 八雲はそっと跪き、地を撫でるように手を滑らせた。

 ふわっと土埃が舞い、それを掴むように八雲の手が動く。


 あれは……。


 八雲は、跪いたままの姿勢で、捧げるように回向へと両手を掲げた。



「『神剣』を奉ります。勿論……本体です」

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