表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
第四章 堂と廟
162/181

第26話 禁厭

 地の底から地上へと戻ると、そこには羽矢さんと明鏡がいた。

 その場に座る蓮は、疲れを吐き出すようにも息をつく。


「よう、お帰り」

 にっこりと笑みを見せる羽矢さんは、片膝を立てて座っている蓮へと手を伸ばした。

「まったく……手厳しいもんだな。少しも休むなと……?」

 言いながら蓮は、ふっと笑みを漏らすと、羽矢さんの手を掴んで立ち上がった。

「こっちの『死神』は、随分と人使いが荒いようだ」

「はは。何を言っている。人使いが荒いのはお前の方だぞ? まあ、手筈は済んでいる」

「流石、話が早いな」

 蓮と羽矢さんは笑みを見せ合うが、明鏡の表情は硬い。


「それよりも……」

 明鏡は言いづらそうにも小さな声で、回向へと目線を向ける。言葉を表すより前に、明鏡の目線は回向の手に握られる符へと向いた。

 黄泉へと向かった僕たちが地上に戻り、黄泉でどうしていたかは気になるところだ。

 それは、共にその全てを見てきた僕にしても、明鏡と同じ思いだ。

 僕は、黄泉で見た事を思い返す。

 蓮が泉に符を浮かべ、文字が浮かび始めたところで水が噴き上がった。その水飛沫が治まると、黄泉の死神と鬼神が姿を現した。

 そして、回向の手に符が渡り、底根の地を破るように符を投げ、僕たちは今、地上にいる。

 目の前に現れた黄泉の死神も、鬼神も、地上へと戻った瞬間に消えていたのだから……どうなったのか、これからまたどうなるのか……僕には分からない。

 あの符を依代に、死神も鬼神も連れ立って地上に戻ったという事なのだろうか。

 それならば、あの符は……。


「ああ……そうだな……」

 明鏡の目の動きで直ぐに察した回向は、そう呟きながら蓮に(めくばせ)をする。

 蓮は分かったと頷き、明鏡に伝える。

「神意を表して貰う為に、泉に符を浮かべた」

「それで……神意は……?」

 明鏡の問いに、回向が符を明鏡に見せた。

 ああ……そうだ。

 あの符に文字が浮かび始めたのを、僕も見ていた。

 回向の手元に符が渡った時、確かに見えた文字『大神』

 あれが……神意……神の意志なのか。

 幽冥の死神であろうとも、大いなる神であると……。

 だけど……尊称しか見えなかった。

 その符を手に地上へと戻ったのだから、名も示されているのでは。


 僕は、符を覗き見た。

 神の尊称だけではなく、やはり、神の名も示されている。

 ……だけど……これって……。


 回向が手にする符へと、明鏡の手がゆっくりと伸びた。


「待て」


 突き抜けるように響いた声に、明鏡の手が符に触れる手前で止まった。

 ……手筈は済んでいるって言っていたのは……。



 一つに束ねた赤毛の長い髪。真っ直ぐにこちらへと進む足取りは、力強さを感じる。

 (よど)むような重い空気感さえ、澄みきった風に変えてしまうような、偉大さが溢れ出ている。

 水景 瑜伽神祇伯だ。


 神祇伯は、符に目線を向けた後、蓮に目線を変える。

「ふ……そのままに迎えるとは」

「その後のお役目は、俺ではないんでね」

「子息……。役目も何も……全ての流れが分かっているからこそ、私をここに来させたのだろう?」

 真意を探るような目を見せる神祇伯に、蓮は、ふっと笑みを漏らすと答える。


「『天津霊を神と言い、国津霊を祇と言う』明確に表せるのは、その名の通り『神祇伯』しかいない……そう思っただけだ」

 蓮の言葉に、神祇伯は静かに頷くと、ちらりと羽矢さんを見た。神祇伯の目線に、羽矢さんはクスリと笑った。神祇伯が何を言うかを分かっているのだろう。


「ふふ……冥府の死神の使い魔は、有無を言わさぬ勢いでな……なんの説明もなかったが……まあ、察するに易しいのも、奎迦で慣れている」

 回向の手から符が神祇伯に渡される。

 神祇伯は、符をじっと見つめると、符に書かれている神の名を口にした。


幽冥主宰大神かくりごとしろしめすおおかみ……か」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ