第13話 有相
「なあ……」
煌びやかに光を放つ天蓋が大きく広がりを見せる中、蓮が静かに口を開いた。
「分かっているとは思うが、それでも誰も口にしねえから俺が言うが……」
蓮は、そう言うと回向を振り向く。
羽矢さんも回向も、蓮が何を言うのかは分かっている事だろう。それは僕も分かっている。
「神仏判然令が出たのは……どの時だ」
「紫条……こんな時になんだよ」
「こんな時だから言ってんだよ」
「今は……そんな話じゃないだろ」
「今がその話をする時だろーが」
「……紫条」
蓮が口にする、暗くも重い話とは逆に、明るく煌びやかな光が、骨骸を包みながら辺りを染めていった。
その様は……順調だった。だからこそ回向は、蓮が話そうとしている事に、困惑したのだろう。
導きが断たれたこの処に、導く手が差し伸べられる。
キラキラと美しく、輝きを増す浄界の様相が広がっていく。
残った骨骸は重罪人……それは僧侶と神職者だ。
廃仏毀釈が起こったこの処は、当然、神仏混淆であった事にも理由はある。
勿論、高宮 来生と神祇伯がいたあの霊山も、廃仏毀釈の対象となった。
死口で明かされた前聖王の言葉を思い出す。
『兄の意向により、時が来たるまでの中継を承諾し、譲位するも、無道により危機と化し、兄の重祚を望んだが、それも叶わず。なんとか位を守るも、そもそもの兄の在位は否定され、兄が位を受け継いだという事実は抹消された……』
「誄詞の際に諡号が贈られたなら、それは高位の者といっても、国主に限られる。そして、誄詞を奏した者は、高僧であった……回向……それはお前が言った言葉だ。そうして俺たちは、その繋がりを辿ってここまで辿り着いた。誄詞があったというのは、神仏分離が行われる以前の事だ。そこで分かる事は」
「然暁の兄は廃仏派に転じたが、神仏分離には関わっていない……だろ。誄詞を奏したのは然暁であり、亡くなったのは、当時の国主であった然暁の兄であったんだからな……」
蓮が答えるより先に、回向は蓮が口にするだろう言葉を言った。
蓮は、回向から目線を外す。そして、口にした言葉は、その言葉を聞いた時からずっと、蓮が引っ掛かりを感じていた事だ。
「『結び付きを奪われれば、祖神さえも奪われる。祖神とは、氏族の系譜に於いても、地位を成り立たせ、引き継がれるもの。それは天地開闢の根源までをも、大きく左右する』……来生の父上との最後の話だ。回向、お前も聞いていただろう」
「……ああ、聞いていたよ」
「神仏判然令は廃仏毀釈に拍車を掛けたが、全ての寺が廃仏毀釈に遭った訳じゃない。難を逃れるには、神社と改称する手立てもあったが、それも全てじゃない。勿論、難を逃れた寺も存在する。寺の数は徹底的に調べ上げられていたんだからな。当然、その中には氏寺もあった。氏族の祈願所は神社だけじゃないからな」
蓮の言葉を聞きながらも回向は、蓮から目線を外したまま、真っ直ぐに前を向いていた。
反論もなく、蓮の言葉を黙って聞く回向は、蓮の言うように、今、話をするべきものと考えを改めたようだった。
廃仏毀釈に遭った処……。それは策により、計画的に行われた事だろう。
「神仏判然令は、王政を目指す為のものだ。兄の意向……時が来るまでの中継。だが、継承権を失った来生には、その意向は叶うはずもなく、両統迭立とはいえ、前聖王が即位する事自体、あり得ない話だったはずだ。だが……それが出来る者は、たった一人……」
経を唱え続ける明鏡の声が流れる中、蓮はその答えを言い切った。
「然暁だけだろ」




