第12話 三世
蓮はふっと笑みを漏らすと口を開いた。
「……順路が変わった……成程ね。それは継文……系図も同じだろ」
「紫条……」
蓮の言葉に振り向く回向は、少し驚いた顔を見せていたが、きっと回向も蓮と同じように感じていた事だろう、続けられた蓮の言葉に納得していた。
「来生にしても、右京にしても、然暁もそうだ。姓が与えられていたというのは、そもそもが臣籍降下していたという事だろ。順序が変わったという訳だ。お前も言っていただろう、回向。分別をつけた結果だと」
「ああ……そうだな」
回向は、明鏡へと目線を向けながら、蓮に答える。
「血統が途絶えない為に子孫は多く残しても、全てが同等な訳じゃない。それは寿命にしても変わってしまうものだ。両統迭立で交互に位に就いても、その系統に後継がなければ、臣籍降下していたとしても復帰が果たされる。だがそれには、どれだけ嫡流に近いか……だ」
「そうは言っても、隠された姓……それは消えたも同然だろう。それでも複数の諡号の中にそれに繋げるものがあったのは、それもまた呪縛なんだろうな。回向……お前も同じように……な」
「紫条……」
蓮は、ふっと笑みを漏らすと、ゆっくりとした口調で言葉を続けた。
「良かったな……回向。その呪縛は『迹』を残した。だから巡り会えたんだろう」
「……ふん……どうせ同じ姓なら……」
……同じ姓。
そうだ……羽矢さんが然暁に言っていた。
『国主の子孫である『真人』であったはずだが、何故か臣下である『朝臣』……』
然暁の息子である明鏡も、それは同じという事か……。明鏡は落胤と、結局はその処に留まる事は出来なかったのだから。
そしてその姓は、回向も同じだ。
羽矢さんの言葉を思い出すと同時に、住職の顔が浮かんだ。
ハッとする僕を、羽矢さんが振り向く。
にっこりと笑みを見せる羽矢さん。
この笑み……。
僕は、羽矢さんに笑みを返す。
……やっぱり。
羽矢さんが目線を前に戻しても、僕の笑みは続いていた。
勝ろうとする気持ちは勿論ないのだが。
敵わないな……もうあの時から……。
『じゃあ、その前にジジイに聞いてみようぜ?』
『忠誠を尽くし、名を揚げる事に尽力する事は、国への貢献に繋がります。その功績が姓によって表されるのですから、氏族の大半は、その姓を与えられています』
そう言った回向の言葉に、住職は難なく答えた。
『分かりました。それでも問題はないでしょう』
目に見えずとも動き出していたものに、羽矢さんも住職も気づいていた。
それが誰であるという事も。
そして、その存在を隠れたものにせず、表に出そうと思っていたんだ。
当主様の痣が消えなかった事も、神祇伯が言ったように繋がりを断たない為にわざと残したのも。
それは明鏡の為でもあった事だろう。
笑みを交えた回向の声が、風と共に流れていくようだった。
その言葉を、一人立ち向かう明鏡へと届けるかのように。
手を合わせながら、経を唱える明鏡の声に同調したのだろう。
キラキラと光を揺らめかせる天蓋が、この処全体を包むように大きく広がった。
天を見上げる骨骸が、降り注がれる光の粒を纏っていく。
「もっと早くに……会いに来れば良かったんだ。それだけの自信、とっくにあっただろ……? 弥勒」




