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処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
第四章 堂と廟
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第9話 不等

 羽矢さんは数珠を手に、経を唱え続けていた。

 光を掴んだ骨骸は導きを得たようで、大きく広がった強い光に、包まれるように消えていく。

 一段落ついたのか、羽矢さんの声が止んだ。


「ただ……」

 蓮が回向と弥勒を交互に見ながら、静かに口を開いた。

 少し沈んだような声色に、僕は蓮の表情を窺う。

 笑みを止め、真剣な表情の蓮。

 何か……思う事があるのだろうか。

 真意を窺うようにも、じっと見据えている。


 羽矢さんの経が止んだ後、光の円が次第に消えていき、次は回向と明鏡の番だと言うように、羽矢さんが二人に目線を送った。

 羂索を握る回向の手に力が込められ、自身の体を支えるように踏み出した足が、力強く地を踏んだ。

 対照的に明鏡は経を唱える事も、動きを見せる事もなく、ただじっとその場に立ち尽くしているように見えた。


 回向の握る羂索が骨骸を絡め取ると、他の骨骸も動き始め、円を縮めるように羽矢さんたちへと寄って来る。

 光の円が消えた事もあり、どんどんと骨骸がこちらへと向かって来るようだ。

 羽矢さんも回向も、そして明鏡も僕たちの方、中心へと後ろ向きに歩を引いて来る。

 回向は羂索を握り締める手に力を込め、強引に引き連れるようにも見えたが、骨骸は自ら歩を進めている。


 後ろ向きにこちらへと来る羽矢さんの背に、蓮が歩を止めるように手をトンと叩くように触れた。

「……どうするんだ。羽矢。回向が羂索を手にしたって事は、残った骨骸は重罪人って訳だ。唯除五逆……そうしてお前は、後を回向に託したんだろ?」

「見えなかったか……蓮……。そんなはずはないよな。重罪人って言っているくらいだからな、お前はとうに見えていただろ。おそらく……弥勒もだ」

「来な処があったからな。ふん……弥勒の奴、自信満々だったくせに動きが鈍い。お前の説法も、縁が絡まぬ者には聞く耳持たずってところか……?」

 蓮の言葉に、羽矢さんは腕を組むと、大きな溜息をついた。

「何とも言い難いがな……弥勒にとっては父親の仇も同然だろ。然暁を慕って浄界への往生を願い、集まった衆生も巻き込んでの焼き討ちだ。だが……」

 羽矢さんの声色が低く落ちる。

「然暁のこの処での新たな門弟は、焼き討ちに対抗すべく、僧兵となった。それは然暁の思いと重なったかどうかは、今更、追求したくはないが……おそらく、焼き討ち時、然暁は不在であっただろう。まあ……不在を狙っての焼き討ちだったのだろうが」

「焼かれた身は、誰が誰とも分からない、だから纏めてこの地に埋めた……か」

「ああ……相打ち覚悟の殺し合いだ」

「衆生まで巻き込んだとなれば、国からしても、その惨事を隠すに他ならなかっただろうな」

「だろうな……だが、僧兵だ。末法も時既に……だろ」

「そうだな……闘う準備は整っていたって事だろう?」

「そういう事だ。そこに法はない。奪う奪われるの争奪戦……そこにあるのは殺生だけだ。だが俺には、いくらなんでも然暁が僧兵を育てたとは思えないな……」

「然暁自身も遊行していた時があったんだろうからな……まあ、だからこそ、お前に言ったように、弥勒は否定する気はないのだろうが……」

 回向が次々と骨骸を絡め取る中、明鏡はただ立ち尽くしている。

 その様を見て、蓮が言う。



「『秘密』に関しては、回向だけが全てだ」

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