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処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
第三章 内と外
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第40話 招喚

「え……? 羽矢さんの口添えがあっても、審理は変わらなかったって……」

「まあ……そもそもこの件は、羽矢が送り、導いた結果ではないからな」

「あ……そうですよね」

「そうは言っても、閻王にしても、審理以前に地獄と決められて送られた死者に、疑念を抱かない訳もないだろうけどな」

「では……鬼籍から名が消えるというのも、やはり……」

「ああ。だがそれも……」

 蓮の目線が羽矢さんを追う。


 明鏡と向き合う羽矢さんは、鬼籍をそっと撫でるように触れると、クスリと笑う。そして、住職の元へと戻り、閻王に鬼籍を返した。

 台に置かれた鬼籍に、閻王は手を乗せる。

 閻王のその仕草を見て、蓮は言った。


「閻王の……『死神』に対しての問答になる事だろう」


 閻王の低く響く声が、ゆっくりと流れ始めた。

「輪廻無く、安穏なる処……仏と成るは煩悩から離れた無の境地か、神と成るは最上に至る為の()の境地か。だが、どちらにしても……」

 鬼籍に乗せた閻王の手が、鬼籍をトントンと叩くように動く。


「我の鬼籍に名を記す亡者は、門を通り、導きあってのもの。罪多き者と見捨てられた死者に、それでも弔いの意を示す者は如何程か。哀れみ、慈悲を施したとしても、導きに至らず、また、導き有りとも、冥府に送り込む為の導きのみであるならば、先を待たずともなかろう」

 それは……地獄と決められた死者に、再度の審理は必要ないという事か……。その為の追善供養も否と。

「奎迦……羽矢」


 閻王の目が鋭くも強く、二人に向いた。

 住職が閻王に答える。


「それは……無縁仏というものでしょうか。縁ある者は名を記され、縁なき者は、その名さえ記される事もない……例え、名が記されようとも縁がなければ名は消え、導きもそれまでと……? 閻王……お言葉ながら我が門は、()()()()()()()願を成す事の出来る、広き門という事をお忘れか」


 住職の言葉に、羽矢さんがクスリと笑う。

 その羽矢さんの様子に、蓮が少し呆れた顔をした。

「まったく……自信がある時程、ああいう顔をするよな、羽矢は」

「……そう……ですね……確かに」

 僕は苦笑しながらも、蓮の言葉に深く納得してしまう。


「……紫条」

 回向が蓮に並ぶ。

「どうした? 回向。秘密を有するお前としては、理解に欠けるか? 門有りとも、門無き門だ。間口が広いっていうのも、そういう意味だ」

「いや……それに対して理解に難はないが……」

 回向の真っ直ぐな目線が、羽矢さんへと向く。その視線に気づく羽矢さんは、ちらりと回向を見ると、ニヤリと笑みを見せ、目線を直ぐに戻した。

「俺……性格に一番難がある奴って……羽矢だと思うんだが」

「はは。自信がある奴程、そう見えるんだよ」

「うわ……」

「なんだよ、回向?」

 蓮は眉を顰める。

「俺……初めてお前の言葉に、深く同意しちまった」

「あ? それに何の問題があるんだよ? 喧嘩売ってんのか、お前。まあ、買わねえけどな?」

「馬鹿な事、言っているんじゃねえ」

「馬鹿な事? 大事な事じゃねえか」

「お前のその言葉の何処にそれが?」

「どの言葉をどう聞くか……だろ?」

「どの言葉をどう……」

「ふん……ちゃんと聞いていろ。羽矢が答える」

 


 目線を閻王へと戻した羽矢さんが、はっきりとした口調で答える。

「縁を結ぶも結ばぬも、そこに()()()()がある。背中を押すは発遣と」

 自信を持った羽矢さんの強い声を聞きながら、蓮と回向が笑みを見せた。



「阿弥陀如来の招喚(しょうかん)だ」

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