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処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
第三章 内と外
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第29話 配祀

 『神話が先か、事実が神話になったか……そして、その神話は尚も続く……か』



 天津神に連なる者。それは一系である事だ。譲り受け継ぐ持物は、その証明にもなる。

 証明となる持物は、あの宝剣であるのだろう。だがこれは、その一系であるという証明でしかなく、どちらが聖王と言えるかの証明にまでは至らない。

 それに加えて、天に浮かぶ番神は、氏族の祖神(おやがみ)に准えられる。

 これが明鏡の功徳によっての顕現であるならば、明鏡の力に添える臣下が揃ったといえるだろう。

 それを物語に准えるならば、天孫降臨を成し遂げるにあたっての、重要な臣下ともなるが……。


 高宮と明鏡が互いに向き合い、目線を重ねていた。二人の表情だけでは、言葉が読み取れなかった。睨み合う訳でもなく、笑みを見せ合う事もない。ただ、余裕ともとれる、穏やかに傾いた表情が重なり合っていた。

 何を思い、何を遂げようと考えているのだろうか……きっとそれは、互いに歩み寄るものである事だろう。



 高宮の隣に立つ回向が、小さく一歩前に出た。警戒したのだろうか、同時に天に浮かぶ番神が、ゆらりと動きを見せた。


 下界での存在を大きく示した、生身(しょうじん)とも言える臣下が、高宮にもいる事は確かな事だが、この場に及んでの争いが再び始まるような事はないと……僕は思っている。

 ただ……高宮にしても明鏡にしても、それぞれ父親からの思いを受け止めている事だろう。それがこの二人の決心に繋がる事になるのだろうが……。


 高宮の口が、言葉を発しようと小さくも動いたが、明鏡の言葉が先に立ち、高宮は口を閉じる。

 明鏡が口にした言葉に、高宮は少し驚いた表情を見せたが、それは直ぐに苦笑に変わった。


「願いを叶えるのは神か仏か……」

 その言葉を聞きながら高宮は、困ったようにも笑みを見せながら顔を伏せ、ゆっくりと瞬きをした。

 明鏡は、天を仰ぎながら言葉を続けた。


「一括りに神と言っても、神も仏も数多い。なればこそ……」

 明鏡の目線が高宮へと戻る。

 そして明鏡は、高宮を前にゆっくりと片膝をついて頭を下げた。

「統治する国の平定を担うのも、また天命と」

 一度、言葉を切ると、明鏡は顔を上げ、高宮に向けて言葉を続ける。


「その(めい)を……俺に与えてくれませんか」



 明鏡の決心した言葉に、回向と高宮は顔を見合わせた。そして、高宮が静かに頷きを見せると、回向も頷きを返す。

 回向は、明鏡と目線を合わせるように屈み、手を差し伸べた。

 その様子を、僕たちは静かに見守っていた。

 ……明鏡。


『一度離した手が……どれ程の後悔を生むか……明鏡……お前が回向の手を振り切ったんじゃないのか』



 明鏡は、差し出された回向の手を見つめる。感極まった様子で、込み上げる思いがハッと息を漏らしていた。

 明鏡の手が、震えながらも回向へとゆっくりと伸びたが、その手は触れる直前で止まった。掴みたくても掴めない思いがそこにあり、躊躇うように指先を丸める明鏡の手を、回向はグッと掴んで引き寄せた。

「……回向」

 切なげにも表情の硬い明鏡に、回向はふっと穏やかな笑みを見せる。

「言っただろ……俺は何度でもこの手を掴むと」

「回向……」

 回向は、手を掴んだまま、導くようにもゆっくりと立ち上がった。

 回向の手に引かれ、共に立ち上がった明鏡に回向は言う。

「神世を求めたこの国には、多数の神がいる。神は多数いても構わない……だが。唯一である神はたった一つ……」


 その言葉を聞く僕たちは、それぞれ隣に立つ者たちと顔を見合わせ、安堵を示すようにゆっくりと頷き合った。



「唯一とされる神が唯一である事は、多数の神があってこそ、成り立つものだ」

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