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処の境界 拮抗篇  作者: 成橋 阿樹
第三章 内と外
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第12話 承服

 真人が……諱。


「……蓮……」

 羽矢さんの言葉に、ただ驚く僕は、答えを求めるように蓮を振り向いた。

「うん?」

 僕を振り向く蓮の表情には、笑みが見えている。

「何も不思議な事などないよ、依」

「それは……弥勒の別名が告げられた事に、意味があるという事なのですね……?」

「ああ。高宮も調べると言っていただろ。今の高宮なら、そこに繋がる事も調べれば分かる事だしな」

「そうですよね……ですが……」

 僕の目線は、高宮へと向いた。

 その目線に気づく蓮が、僕に言う。

「この時になって、高宮が冥府に現れた事か?」

「……ええ」

 僕と話しながら、今度は蓮の目線が、回向へと向いた。

 蓮の視線に気づく回向が蓮を振り向く。互いに目線を合わせた後、回向は目線を黒僧へと戻した。

 その様子で僕は気づく。

「蓮は……こんな先まで……見えていたんですか」

 驚きながら蓮を見る僕に。

「うーん……正確には、ここまで見えていたと言うより、(わざわ)い回避ってところかな」

 蓮は、ははっと笑った。

「禍い回避……。とは言え、霊山に聖王は来ていませんでしたよね。それでどうやって……」

「即位灌頂を行なったのか、か?」

「はい」

「依……」

 蓮は、僕を真っ直ぐに見る。

 あまりにも真剣な表情に、僕は小さくも息を飲んだ。


「回向の性格は知っているよな」


 真剣な表情と、口にする言葉が一致せず、僕は困惑する。

「あいつ……周りが思っているより、性格悪いぞ」

「あの……蓮……」

 僕は苦笑を漏らした。

 離れてはいるが、蓮の言葉が聞こえているのだろう、いや……聞こえていなくとも、蓮が何を口にしているのかに気づいている。回向の目線が睨むように蓮を見ていた。

 そんな回向に蓮は、ニヤリと笑みを返す。

 回向へと目を向けたまま、蓮は言葉を続けた。


 蓮の言葉が静かに流れる中、回向の目線が、羽矢さんと向き合う黒僧へと戻る。

「既に(おこ)なっていたんだよ、あいつ」

「え……」

「あの時、俺は言葉にしていないぞ。即位灌頂と先に答えたのは回向の方だ。まあ……どう答えてくるかと試してはいたがな」

 ……確かに……。


『回向……お前じゃなければダメなんだ』

 そう言って蓮は、回向に言葉を求めるようにも、小首を傾げて笑みを見せた。

 そして、その言葉に含まれていたものが灌頂にあると、僕は気づく事が出来ていた。

『真意を知らなくして契は結べません。それに…… 一度、縁を結べば何があろうとも手を差し伸べ続ける……そうですよね?』

 僕は、蓮にそう答えていたのだから。


 あの時の回向の驚いた表情は、蓮に真意を見抜かれていた事にあったんだと、今更ながらに思った。

 そもそも、国の令であった神仏分離。国主は神も同然と、国家神道の中、即位灌頂を行えるはずがない。

 神仏分離後の今、それに回向は今や宮司だ。

 ……秘密……か。

 成程と頷ける。


 蓮は言葉を続けた。

「側近がいるとはいえ、あんな状況下で、回向が高宮の側から離れる事が出来ているんだから、策を講じない訳がない。それに……崩壊した神殿の中で羽矢が逆修を行なった時に、回向に言ってだだろ。後はお前が戒を定めろってな」

「そういう意味だったんですね……それであの時には既に……」

「ああ。秘密にしたいのも勿論、分かってはいるが……」

 蓮は、クスリと笑みを漏らし、回向へと目線を向けながら言った。


 回向は、蓮を振り向く事はなかったが、気づいているだろう、表情を隠すようにも俯き、その口元に笑みが見えた。



「否定なんかする訳ねえだろ。そもそも、俺は混淆なんだからな」

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