酔った金髪のお姉さんが道ばたで寝ています
残業のし過ぎで総務課から説教を食らった。
ようやく解放されたのが午後の十一時。腹が立ったのでしっかりと残業届けを着けてやった。
夜の店は顔の赤いオッサン達で溢れており、コイツらは残業なんかとは縁が無くて、定時で上がって終電まで飲めるお貴族様とやらなんだろう。毒スッポンにアソコを噛まれてしまえ。
「お兄さん1杯どう? 可愛い子つけるよ?」
「すみません、待ち合わせしてるので」
怪しい客引きは体良くお断りするに限る。
無視するとキレて蹴り掛かってくる奴も中にはいるから要注意だ。二度とパチンコで勝てなくなる呪いにかかってしまえ。
夜の道を進むと、僅かに開いた扉の隙間から手招きする女が見えたりするが、乗ってはいけない。アイツらは金を搾取するためなら多少過激なサービスもいとわない。魂まで取られるに違いないだろう。何か知らんが罪悪感で苛んでしまえ。
「……Zzz」
金髪の女が寝ている。それも道路でだ。
これは新しいタイプの遭遇だ。しかも大分飲んだのか、かなりの酒臭さ。恐らくはビンタしても起きない感じであろう。
「もしもーし」
触らずに声を掛ける。万が一触ってセクハラだの痴漢だのレイパーだので起訴されたらたまらん。
「……Zzz」
女は一向に起きる気配が無い。
白シャツにかなり短いジーパン。心なしか下着が透けて見えない事もない。俺が良心を持たぬレイパーマシーンだったら今頃この女の貞操は三つほど無くなっているであろう。
──待て。
今、良心が無ければこの女をレイプアレイプって言ったか?
て、事は……?
俺、このお姉さんイケるって事か?
──納得。
金髪のキレイ系で道ばたで酔って寝るタイプのお姉さん。うん、好みだわ。
「もしもーし、警察に行きますよー」
不審な輩にお姉さんの貞操を取られるのは至極御免である。奴等に取られるくらいなら俺が欲しい。勿論合意の上で、だ。
仕方なしに警察へ送り届けるのがやはり紳士的に宜しいかと存じ上げ、そっと肩を叩くも起きる気配が無い。肩は柔らかかった。
──待て。
警察が安心とは限らない。交番には手錠も拳銃もある。もし届けた警察の良心が巡視ちゅうだったとしたら、間違いなくお姉さんのお守りにマグナム44の風穴があく。それだけはいかん。
──納得。
やはり警察は信用ならん。所詮は赤の他人。大事なお姉さんを預けるなんぞ言語道断歩道だ。
となると、やることは三つ。
お姉さんの家に送り届けるか、俺の家に泊まらせるか、ホテルか。どれかだ。
ホテルはない。ムラムラが止まらないからだ。
お姉さんの家は……知らん。
つまり、消去法で俺の家だ。
「ヘイ、タクシー!」
丁度良く通りかかったタクシーを止め、お姉さんを運転手と二人で車へと載せる。まるで連れ去りのようだが、不可抗力だ。何故なら俺はお姉さんを抱えてタクシーに乗れるほど筋力が無い。
「俺んちまで」
初乗り650円。自宅まで1580円も使ってしまった。
「あと何とかしますので。ほら美紀、帰るぞ」
タクシーの運転手に怪しまれないよう、偽名まで使ってしまった。これは完全にアウトだろう。限りなく犯罪臭い匂いがしないでもない。
俺の部屋が1階で助かった。流石にエレベーターまで引きずって誰かに見られたら通報されかねん。
ほぼ引きずるようにして、なんとかお姉さんを俺の部屋に収めた。これでもう邪魔者は出ない。
「ちょいと片付けるか」
念のため部屋を片付けた。
その間にお姉さんは俺の靴の上に二回吐いていた。
もうそのまま放っておいても当初の問題はクリア出来ているので良いのだが、出来れば何かかける物が欲しい。あとゲロ様を何とかしたい。
ソファ周りを片付けている間にゲロが増えていた。
「ぅ……ココ、どこ……?」
「あ、大丈夫です。ソファで寝てて下さい」
何が大丈夫なのだろうが。咄嗟の言い訳にしてはかなり問題がある。
が、お姉さんはそんなことに疑問を持てない程酩酊しており躓きかけた。咄嗟に肩を押さえてしまい、何だか心配で仕方ない。あと柔らかかった。
お姉さんはそのままソファで熟睡してしまった。
俺もムラムラする前に寝るとしよう。
ゲロ様を処理して、な。
朝起きると、ソファにはゲロ様で『ありがとう。お世話になりました』と書かれており、俺は朝一で新しいソファをコス〇コに買いに行った。