1話 始まり
松明が静かに燃える廊下を1人の男が歩く
ここは魔界の中心、魔王城·····の一角。
廊下の突き当たりにはひとつの部屋があり、ご丁寧にもドアプレートが掛かっている。
魔王軍研究担当兼魔法具開発担当兼地上偵察担当
魔王軍専属 研究所 所長
ノア・ウォルター・ソロモン
〈只今留守です。〉
ドアを開けて部屋に入る
部屋の中は散らかっており、分厚い本や研究資料等が乱雑に積み重ねられていた。
魔獣の死体やら何やらよく分からない資料の中で頭を抱える
「マジかよオオオオオオッッ!!」
そりゃないだろぉ。
いやノアて····。
雑魚中の雑魚じゃねぇかあああああああ!転生だよ!転生したんだよ!それは良いんだ、最高だよ。
そして転生先は《アゲート・ファンタジア》。
それも良い、大好きなゲームだ。
そして転生したキャラは魔王軍·····。
それもイイ、むしろイイ。
しかし·····だが、しかし!
机を叩いて叫ぶ
「ノアはないだろオオオオオオオ!」
ノア・ウォルター・ソロモンとは、RPGゲーム《アゲート・ファンタジア》に出てくるモブキャラだ。
魔王軍に所属しているイケメン研究者で、昔優秀な研究者だった祖父の実験により不老不死となった。
研究者キャラのクセに眼鏡を掛けてなかったり金髪だったりと少々おかしな設定だが、人気は高い。
·····人気だけは。
見た目よし、頭よし、なのになぜ残念キャラ扱いされるかと言うと·····
ノアは····弱い。
うん。
·····めちゃくちゃ弱い(泣笑)。
不老不死なのに。魔王軍専属研究者っていう肩書きなのに。
作中上位を誇るイケメンなのに。キャラ濃いのに。
強キャラ感出てたのに。金髪なのに。
········弱い(爆笑)。
「グス···あれ?涙が···。」
まぁ不老不死って能力があるだけましか····。
····何か机の上のフラスコが滲んで見えるけどきっと気のせいだ。
何故ノアは弱いのか、それは単純に····戦闘力が無いからだ。剣が使える訳でもなく、魔法がずば抜けてる訳でもない。
言うなれば結構頭が良くて超イケメンで不老不死なだけの一般人····それがノア(俺)だ。
そんなノアの作中での役割は、ズバリ噛ませ犬だ。KA☆MA☆Seとも言う。
どんなにボコボコにされても回復する不老不死という特性故に、新しいストーリーでボスが出てくると高確率で生け贄となる。
運営のイジメか?
よくある、「あのキャラがボコボコにされてる!?あのボスはなんて強いんだ」現象である。
最も、ノアの場合は初登場から大して強くなかったが····。
ストーリー序盤、初めて魔界に乗り込んだ主人公ミシェル・フリートが森を彷徨っているとノアが、そこは俺の研究資料採の集場所だといちゃもんをつけて戦いになる。
ちなみにこれは確定演出で、魔界はヤバい所という印象を強めるためにノアが主人公をボコボコにする。
しかし、次に登場した時は強くなった主人公や最初のボス(四天王最弱)等にタコ殴り····。
全ノアファンが泣いた。·····ファンがいるのか知らんけど。
気持ちを整理して立ち上がると鏡の中からノアがこちらを覗いている。
実におかしな事だが、足にぶつかるガラクタがここが現実である事を示していた。
理由は分からないが、俺は転生したようだ·····。
不死身しか取り柄のない作中屈指の雑魚キャラ·····ノアに····。