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ファーミット前夜

 ──ファーミット1週間前。


 ボレド誌、夕刊。

【騎兵団、王都に凱旋 異形幹部は逃亡の可能性】

『明朝、国民が出迎える中トル村に突入した部隊が王都に帰還した。ウラン騎兵長は「トル村を制圧していた異形種同盟軍は無事に撃退された」と説明し、危機は去ったことを国民に呼びかけた。突入した部隊は約150名。冒険者も含まれていたと見られ、合わせて5人が未帰還となった。なお、異形種同盟軍を指揮していた幹部級の異形は逃亡したとみられ、議会では野党が激しく追及──』


 同、夕刊。

【ジョニー・ジョーンズ、またお手柄。竜族の財宝発見か】

『──ファーミットまでの帰還は絶望的と思われていたが、我らの探検家ジョニー・ジョーンズは死のジャングルより生還した。モドゥロ密林には竜族の遺跡と財宝が眠っていると語り継がれてきたが、その都市伝説は彼の持ち帰った黄金により真実となった。ジョーンズ氏は記者の取材に対し、「この生きては戻れない旅の成功は、まさしく神のお陰だ」と語り、ファーミットの際は宝物の一部を献上すると──』



 ──ファーミット5日前。


 ガーリック誌、朝刊。

【迫るファーミット 警視隊が不当摘発か】

『──また、凱旋の翌日には警視隊の1個小隊が民家に押し入り、不当に市民を摘発したとして、市民団体のブランゴ・ワァル代表は「権力によって権利が妨害されている」と政府を非難した。警視庁は「テロの事前阻止であり、証拠も掴んでいる」と説明し、真っ向から対立──』




 ──ファーミット3日前。


 ボレド誌、朝刊。

【王国各地で厳戒態勢 海軍が海上封鎖を実行】

『──昨年も相次いだ不審船侵入の対策として、王立海軍のウォゼル・ホッパー大将は全面的な海上封鎖を実行したと発表した。本日より、漁業は指定区域内に制限される他、商船の往来も制限される──』




 ──ファーミット2日前。


 ボレド誌、朝刊。

【コタノス伯爵、"養子レース"への参加を検討】

『コタノス伯爵は5男を王家へ養子を出すことを検討していると発表した。本誌の記者に対し、コタノス伯爵は「王家を後世まで繋ぐためである」と説明している。俗に"養子レース"と呼ばれるこの競争に参加を表明した貴族はこれで5人目であり、ますます苛烈なものとなると思われる。しかし未だに王政側からのコメントはなく──』


 カレニア誌、夕刊。

【左翼団体、大規模集会を計画か 警視庁は中止呼びかけ】

『──ブランゴ・ワァル代表は「極めて平和的な集会である」と説明し、また、ガーリック誌も警視庁の中止要求は不当であると反発した。この市民団体は昨年のファーミットでも集会を行い、暴動にまで発展させた前科を持つ。警視庁は直ちにこの団体を徹底的に壊滅させるべきである──』




 ──ファーミット前日。


 ボレド誌、朝刊。

【明日はファーミット 警視庁、警官1000人を動員し厳戒態勢】

『──当日は大混雑が予想される。教会は「どうか、心から主神の生誕を祝ってください。そして、花を忘れないでください」とコメントしており──』


 カレニア誌、朝刊。

【主張:ブランゴ・ワァル派は早急に解散せよ】

『──集会と称してはいるが、実態は主張を押し通すための暴動に過ぎず、王国臣民の不安を煽る悪質なものである。テロリズムを誘発する恐れもあり、国に利する行為とは言い難い。此度の集会を中止し、早急に解散せよ──』


 ブランゴ・ワァル派の配布したポスター。

【権力粉砕! 反戦集会実施! 総員、決起せよ!】

『悪しき権力を共に打ち砕こう! 市民ひとりひとりの力が、悪を打倒する力になる! 立ち上がろう! 国を正しい姿に!』




 ★★★★★★




 全ての紙に目を通したその女は、丁寧に紙の束を床に置いた。

 石造りの床の座り心地は最悪であったが、新聞やらポスターを眺めている間は非常に楽しく、尻に来る不愉快さを忘れることができた。


「……ふふ……」


 愉快そうに笑い、女は立ち上がる。

 寄りかかっていた壁から離れ、通路を歩き始める。


 無限に続く通路の先は影になっており、彼女にも見ることはできない。

 それでも、彼女は歩いて行く。


 入ることも出ることも許されぬその空間に、彼女は囚われていた。

 真っ白な髪をボブカットにし、ひらひらした服もこれまた真っ白。

 要塞のような石造の道に似合わない程、その出で立ちも顔も美しい。


 そんな彼女が思うのは、これから王国にて始まる一(・)大(・)事(・)。

 正確には、その一大事におけるあ(・)る(・)男(・)の動向であった。


「……もうそろそろいいかな」


 その呟きは誰にも聞かれることはなく、無限に続く通路の奥へ吸い込まれて消えていった。

【天界教】天界とそこに住まう"神"を崇める宗教。"慈愛の心"を重んじ、神々の教えを記した聖典に従うことを是とする。王国内に多数の信徒がおり、事実上の国教となっている。また、王国のみならずルクハント島の諸国家の大半が天界教を国教としている

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