やられたらやり返しそうな白雪姫
東京中央王都の悪事を暴き出せ!!
昔々、王とお妃の間に1人の女の子が生まれました。
女の子は白雪姫と名付けられ、とても大切に育てられました。
しかし、程なくしてお妃は流行病に倒れ、医者を呼んであらゆる手を尽くしましたが、亡くなりました。
数年後、王は新たにお妃を設けましたが、そのお妃は王の娘である白雪姫を好きではありませんでした──
「鏡よ……世界で一番優秀なバンカーは誰だぁ?」
「東京中央王都第三課の白雪姫です」
何でも知っている不思議な鏡に向かって問い掛けると、鏡は白雪姫の名を告げました。
自らが世界一のバンカーだと自負していたお妃は、それはそれは怒り狂いました。
「奴を消せ!」
お妃は自らの手先である狩人を使い、白雪姫の不正を見付け、それを口実に出向させようと企みました。
狩人はメインサーバにアクセスし、白雪姫の業務日誌、そして取引履歴を片っ端から漁りました。しかし、何処を探しても小さな不正の欠片すら見付かりませんでした。
「こんな……こんなにもクリーンなバンカーが居るなんて!」
狩人は驚きました。
「そこで何をしてるんです!?」
白雪姫がオフィスへと戻ると、書類を広げていた狩人と偶然鉢合わせになりました。
「見付かったのなら話は早い。白雪姫、貴女はさる御方の怒りを買った。このままでは小さな躓きを口実に、地方への出向を命じられるだろう。その前に深く、ふかぁぁぁぁく頭を下げて、その方に忠誠を誓うべきだ。そうすればバンカーとして再起不能にはならないだろう」
しかし狩人の脅し文句を聞いた所で怯む白雪姫ではありませんでした。白雪姫は狩人を強く睨みつけました。
「ふん! さる御方はについては此方も把握しております。そして、さる御方の不正の種も掴んでおります。頭を下げるのはそちらの方ではないかと……」
「貴様! あの御方を脅すと言うのか!?」
「脅すだなんて……ただ私は、私を脅かす者については容赦はしない主義なんですよ…………」
「…………」
狩人は苦虫をかみつぶしたような顔で、白雪姫の前から立ち去りました。
数日後、東京中央王都にて、役員定例会が行われました。
「本日は辞令が出ております。東京中央王都、第三課、白雪姫!」
「はっ」
「貴殿を第三課、課長補佐に任命する」
「身に余る光栄で御座います」
白雪姫はお妃の手から辞令書を手渡されました。二人は終始真顔でありましたが、内心はお互いに啀み合っておりました。
「さて、もう一人……第四課、狩人!」
「……え?」
「貴殿を……僻地営業所へ異動とする」
「ええっ!?」
「貴殿は業務時間以外に、メインサーバにアクセスし、白雪姫について何やら嗅ぎ回った容疑が掛けられている。社の防犯カメラにもその記録が映し出されている。申し開きは出来ないぞ?」
お妃は白々しくも突き放すように言い放ちました。
「そ、それは……あ、貴女が──」
「なんだね?」
「く、くぅぅぅぅ…………!!」
狩人は口封じに僻地営業所へと出向を命じられました。狩人は酷く悲しい顔でその場を後にしました。
「白雪姫君」
「はっ」
「私はね、キミの腕を買っている。これからも宜しく頼むよ?」
「ははっ」
課長補佐の座に就いた白雪姫は、仕事量も増え、更に忙しく働きました。
そんなある日──
「こちらに、白雪姫はおりますか?」
一人の老婆が白雪姫を訪ねて参りました。
「私が白雪姫ですが……何か?」
「私、以前こちらの課長様と取引をさせて頂いた者なのですが……これを」
老婆は白雪姫に書類を数点差し出しました。それは老婆が経営する会社への請求書、そして課長の口座の通帳の写しでありました。
「こ、これは……!!」
白雪姫はそれを見て愕然としました。なんと課長は老婆へ水増し請求を行い、水増し分を自らの口座へと入金していたのであります!
「マズい……これはマズいぞ…………!!」
しかも日付は白雪姫が課長補佐に就任する少し前。引き継ぎの甘さを突かれた場合、白雪姫にも何らかの処分が下ることは間違いありません。
「毒リンゴを食わされたか……!!」
白雪姫は就任早々、窮地に立たされました…………。
白雪姫は課長へ報告する前に、自前で少し調査を致しました。
「…………おかしい。老婆が経営する会社の住所にはラーメン屋しか存在しない!」
白雪姫が調査を行うと、次々と謎が浮かび上がってまいりました。
「どの書類も最終的にはお妃の承認印が押されている。やはりこの案件……お妃が絡んでいると見て間違いない」
白雪姫は課長を問いました。課長は小人7人分の身長で、椅子に腰掛けコーヒーを飲んでおりました。
「課長……」
「なんだね?」
「かくかくしかじかで貴方の口座に不正な入金が……」
「……知らぬ! そんな物は知らぬぞ!!」
課長は強くそれを否定しましたが、明らかに様子がおかしく、手が震えておりました。
「この会社の住所を調べましたが、ラーメン屋しかありませんでした。一体どうなってるんです? そしてこの案件の承認印はお妃です。さては貴方もお妃にはめられ、今まさに私と一緒に斬り捨てられようとしているのでしょう!?」
──バンッ!!
「──!!」
白雪姫が強く書類を叩き付けると、課長は脅えて観念致しました。
「あ、ああ、そうだよ! 俺もお妃様にはめられたんだ!! 取引後にその会社が架空であることに気付き、しかも知らぬ名前で口座に入金まで!! 老婆に連絡も着かず。俺がお妃様に相談を持ち掛けたら、黙っていろと言われたんだ!! そこで辻褄が合うように請求書を改竄して……改竄して…………ううっ!!」
課長は酷く泣き崩れ、その場にへたり込みました。
「……分かりました」
白雪姫は、諸悪の根源と対峙するため、お妃の部屋へと向かいました──
──コンコン
「どうぞ」
「失礼致します」
白雪姫は何食わぬ顔でお妃の前へと姿を現しました。部屋ではお妃が丁度ティータイムに紅茶とパイを楽しんでおりました。
「何かね?」
「……課長が全てを認めました。貴女に黙っていろと言われたこともね」
白雪姫はボイスレコーダーを取り出し、お妃に聞かせました。
しかし、お妃は顔色一つ変えず、パイを一口かじりました。
「私は知らないよ。奴が勝手にほざいているだけだ。書類も代理で印をしただけ。責任は全て奴にある」
白雪姫はボイスレコーダーをしまい、スッとお妃の隣のパイへと手を向けました。
「パイ……美味しいですか?」
「?」
「実は件のラーメン屋の土地の持ち主を調べたところ……不思議な場所に行き着きましてねぇ」
白雪姫が一枚のパンフレットを取り出しました。
【毒ちゃん林檎ファーム】
「──!!」
「ここのオーナーの所有する土地となっておりました」
お妃は直ぐにパイから手を離しましたが、手の痺れや口の麻痺が始まり、お妃は自由が効かなくなってしまいました。
「調べた所、この農場では普通のリンゴに紛れて、悪質な毒リンゴを栽培しておりました。ところで……そのパイは何処から貰ったんです?」
「く、くか……かは……!」
白雪姫がお妃の前へと手を着きました。その顔は酷くお妃を見下しており、既にお妃の顔には敗北の二文字が浮かんでおりました。
「食わされたら食わし返す……パイ返しだ!!!!」
お妃は喉元を押さえ白旗をあげました。
「た、助け……て……」
「罪を憎んでバンカーを憎まず……」
白雪姫は解毒剤をお妃に飲ませ、全てを白状したお妃は隠居し、二度と白雪姫の前に姿を見せることはありませんでした。
白雪姫は長く優秀なバンカーとして部下に、会社に、後世に語り継がれましたとさ。
読んで頂きましてありがとうございました!
このシリーズ、文字数が長くなって困る……(笑)
(*´д`*)