狂う最狂
おまたせしました
「さて…央力はどこだ…」
地獄に戻った俺は央力を探し始めた。央力は常に殺気と神気を溢れさせてるようなやつだから、それを辿ればすぐに分かるはずだが…
「ん〜、いねぇなぁ。何か異変が起きてる感じも無いし、どうなってんだ…?」
央力の姿どころかこれっぽちの殺気すら感じない。それに央力が外にいるということはそれ即ち、異変と厄災が仲良く手繋いで歩いているということなのだが、それすらも見当たらない。
目の前にあるのはいつもの地獄。ところところ激戦の爪痕が残っているが、処刑執行人達はそれを癒しつつ、わっせわっせと罪人達を裁いている。このまま探しててもラチが明かないと感じだ俺は、その場にいた処刑執行人を適当に呼んでロボと央力との激闘の行方を尋ねた。
「あぁっ! 穏雅さんっ、戻って来てくれたんですかっ!?」
「いや別に。ロボと央力が殺り合った結果、ロボの方が先にダウンしたって聞いたから万が一に備えて来た。央力がどうなったか知らんか?」
「央力って…たしか『受刑者番号2C0442-16』のやつでしたっけ? ああ、それならもう問題無いですよ」
「どういうことだ? 央力をのさばらせておくのはマズイだろ」
あの央力が脱獄し、ロボとの戦いを制したというのに処刑執行人達はだいぶ落ち着いているようだった。というか、央力がうろついている状況になっているやもしれぬのに、このいつも通りの空気はなんだ。普通なら異常事態となって処刑執行人達は全員慌てふためきながら央力を探しているはずじゃないのか。ましてや俺もロボも頼れないというのに。
俺は少し不安になりつつ尋ねると、処刑執行人達はキョトンとした顔のままだった。何でそんなに慌ててんの、と逆に聞かれそうな顔で。
「マズイも何も、『受刑者番号2C0442-16』は今檻の中ですよ。だってロボさんとの戦いの後、何か知りませんけどワーワー声上げて発狂したかと思いきや、急にその場にヘタレ込んじゃったらしいんですから」
「…?」
「んで、駆け付けた処刑執行人達が取り抑えようとするとまるで抵抗しなかったそうです。んで近づいて見たら顔も手も血だらけなんですよ。どうやらソイツが自分自身の手で自分自身の顔の皮を剥いだらしいんですわ、これが。それで何の抵抗もせず今は元の檻の中ってわけですよ」
「央力が…そんなことしたのか?」
俺はその処刑執行人にそう尋ねるが、ソイツは自分は現場に居合わせたわけじゃないけど大人しく同僚に運ばれているところは見たと言う。つまり央力が何かしらの発狂後、何故か大人しくなって牢獄の中にいるってのは間違いなさそうだ。
しかし言葉だけ聞いても、事実だけを突き付けられても、まるで状況が分からない。いったい央力に何が起きたのか。
そもそもロボとの激闘に勝ったのなら喜びのあまり発狂はするだろうが、それなら今でも馬鹿みたいにそこら中を跳ね回ってるはずだ。しかも俺やロボならともかく、雑魚同然の処刑執行人達に大人しく連れるがままというのも理解出来ない。普段の央力ならロボに担がれない限り全力で抵抗するはずだ。
「うぅ〜ん、分からん…」
「ま、ま、過ぎたことはいいじゃないですか。終わり良ければ全て良し。『受刑者番号2C0442-16』はまた檻の中に戻ったんですから良しとしましょうよ。それよりまた仕事復帰してくれませんか? あなたがいないと昼食がキツくて…」
「それに関してはお前らで何とかしろ。俺はもう帰る」
「えぇー、せっかく来たんですからもっとゆっくりしていってくださいよぉ」
元同僚の制止を振り切り、俺はスタスタと地獄を後にした。央力の行動や思考に関してはマジで分からないし、何でそうなったのか皆目見当もつかない。俺はその謎をロボの家にて打ち明けた。ロボなら央力に関して何か知ってるかも分からんし、そもそも俺はもう地獄に戻れないのだからロボに出来るだけ情報は渡した方が良いだろう。
俺はロボの家に戻ると、央力の件について全てを話した。ロボとの激闘の後、央力は発狂しかたと思えばその場にヘタレ込んだこと。お前や俺ならともかく雑魚に等しい処刑執行人達に抵抗の1つもせず牢獄に収監されたこと。気が狂い過ぎて針が何周もしたのか自分の手で自分自身の顔の皮膚を剥いだこと。自分が知ったことをとにかく全部ロボに話した。
「ふぅむ、なるほど」
「なんか分かったか? 央力って元々狂ってるけど、自傷行為の方向じゃないだろ?」
「うん、分かった」
「おおっ、何か心当たりでもあるのか。教えてくれ」
ロボのボディーはまだ完全に直っておらず、玄関のとこにもあるスピーカーで俺らは会話した。相変わらずロボの家に俺が入れる範囲は玄関から1mの廊下までだ。
それでロボは俺の話を聞いた後、分かったとたしかにそう言った。やはりロボの中ではある程度話が出来上がっており、この情報が謎を解決する決め手となっていたようだ。俺はスピーカーなのに顔を近づけて尋ねると、ロボは一呼吸置いてから、
「全っっっっ然分からんことが分かった」
と答えた。
「お前…スクラップにしてやろうか…」
「冗談だって冗談っ! でも俺には何も分からんってのは本当だ。でもさ、央力がそんな風に狂うとは思わんけどなぁ…」
ウザい、見えないけど何となくどんな顔してる想像出来てしまうからもっとウザい。もしもここにロボの体があったら凹むまで殴ってやろうとまで思った。しかしその怒りを必死に飲み込み、胃の中で処理すると、俺はストレス発散と気を紛らすために別のことを話し出した。同僚や上への愚痴を混じらせて。
「あーあ、他の連中や俺の元同僚達は一件落着したって考えてるよ。つかもう関わりたくないって感じだから、そう自分に言い聞かせてんだろうな。央力のことは全部俺らに押し付けてさ」
「仕方ないさ、俺らみたいな規格外の化物なんざ相手にしたかねぇだろ。そうじゃなかったら、『地獄の3匹の鬼』なんてあだ名が付くかっつぅの」
「なんだお前、ソレ知ってたのか」
「はんっ、処理執行人っつぅ鬼共が、『鬼』って言葉使ってんだぜ? あだ名以前にやつらのそんな態度を俺もお前も腐るほど目の当たりにして来ただろ? つか噂なんぞ口に釘ブッ刺しても聞こえて来んもんだからよ。知らねぇとしたら牢獄にいる央力だけじゃね?」
俺はそう言われて何となく仕事やってた頃の同僚の目を思い出す。やつらの目には『松田 穏雅』など映っていなかった。映っていたのは穏雅が持つ『圧倒的な力』、それを振るわれないために、誰も彼もが必死に目をそらして自分は関係ないと言っていた。鬼に『鬼』と呼ばれて当然だ。
でもそらさなかった者もいる。ロボと央力、そして美奈…
「あっ、ああっ! 夕飯作るの忘れてたっ! 今何時?」
美奈の名が出た瞬間思い出した。話に夢中で彼女のことをすっかり忘れていた。早く帰って飯を作らないと、巻き付かれて逃げ場ない状態でガミガミどやされる。俺はワタワタ慌てながらロボに現在の時刻を尋ねた。
「6時過ぎたぐらいだなー、早く帰らないと鬼が恐れる鬼が恐れる大蛇にツノが生えてもっと恐ろしい怪物になるかもよ? ラミアとかエキドナとか…いやお前が敵わないってんだからバジリスクとかかな? もしかしたら八岐大蛇やヒュドラまで…」
「美奈はそんな怪物じゃないっ!! つか八岐大蛇なんて、美奈の顔が8つもあってたまるか! そもそも天界を追放された神獣と美奈を一緒にすんなっ!!」
「おーおー、愛しい女のことになると怖いねぇ」
美奈はあんな怪物じゃない。か弱く俺がいなければどーにもならない女の子だ。ましてや八岐大蛇と一緒にするなど言語同断だ。書物にあった伝説によるとたまたま近場を通りかかった美女に惚れて酒盛りを興じてしまい、その間の仕事を怠った罪で天界を追放されたとある。そんな情け無い神獣なんかに彼女がなるわけがない。
「俺はもう帰るっ! 美奈に飯作ってやらんとっ!」
「新婚さんは大変だねぇ。ま、せいぜい幸せになれ。そんでさっさと金返せ」
「必ず返すつってんだろ。給料入ったらちゃんと返すよっ!」
「はんっ、もし返せないって判断したその時は自分の首が飛ぶのを覚悟しとけ」
俺はロボの声を背に浴びながら帰路を急いだ。早く帰らないと美奈の制裁のビンタを喰らってしまう。
ガチッ
「ただいまっ! ごめん、遅くなった! すぐ夕飯…あれ?」
俺は急いでドアを開け、念のためビンタを喰らってもいいよう頰に力を入れる。しかしお迎えのビンタどころかおかえりの声さえ聞こえて来ない。俺は不思議に思いながら家の中に入ると美奈はリビングの真ん中にとぐろを巻いたままじっとしている。普段ならこの時間は食事をしているはずだが、どこか体調でも悪いのだろうか。
「美奈ーっ? 大丈夫? どこか具合でも悪いのか? 腹減ってんならそっこー作るぞ」
「あっ……穏雅……」
「どうした、随分顔が赤いな。それに震えてるし、ってなんだそりゃ」
「コレ……その……」
美奈は頰を林檎のように赤らめ体をふるふると小刻みに震えさしている。そしてそのとぐろの真ん中に何か白いものを抱え、何やら大事そうに守っているようだ。見た感じ自分の体温で温めてるようにも見える。
「ナニコレ…卵? なんでこんなもん温めてんの?」
なんか嫌な予感がして来たけど、きっとそれは気のせいだ。思い当たる節など全く無い、その筈だ。
俺はダラダラ冷や汗をかきながら、ガクガク震えた声でそう尋ねた。すると美奈は徐に振り向いて……
「穏雅……卵、産まれちゃった……」
目の前が白金一色に包まれ、俺の意識は闇へと一直線に落ちていった。
次回の投稿もお楽しみに




