模造品対複製品の決闘 後編
おまたせしました
グゴゴゴゴゴゴゴゴッ…
大地はメリメリと裂けていく痛みからか、グゴゴッと低い唸り声を上げていく。空気は2人のオーラと神気に押され、さらにその振動による粉塵の舞により行き場を失いビリビリと困り果てている。
そしてその災の目となる2人は互いに睨み合い、いつ襲いかかろうか機会を伺っていた。実力が近しい者同士の戦いはほんのわずかな行動が命取りになる。それをよく知っているからこそ、こうして十分な距離を持ったまま睨み合っているのだ。
「まさかお前がアイツと同じ力持っていたとはな。ただの雑魚だと思ってたが…」
「はんっ、俺がお前らの激闘をただ指咥えて見てるだけだと思ったか」
ジリッ…ジリッ…
俺は央力と距離を保ち、ビシッと構えながら迎撃姿勢に入る。果たして自分の計算や数値を遥かに超えたこの力がいかがなものか、しかも相手は『同等の力』の使い方に慣れている。有利不利で見たら初めて使うこちらの方が断然不利だろう。だからまずは…
ドヒュンッ!!
パァンッ!!
ヒュッ…ズザザザァッ!!
慣れるまで撤退して防戦だ。俺は早速殴りかかって来た央力の拳を後ろに飛びながら受けると、素早くそれを振りほどき反動でさらに大きく後方に飛ぶ。そして十分な距離を取れたら足で急ブレーキをかけて止まり、再び戦闘の構えを取り直す。反撃はしなくていいからただひたすら相手の攻撃の受けと避けに徹底する。力に慣れていない以上、下手に攻めるのは危険過ぎるからだ。
それから俺は央力の拳をひたすら目で追い、防戦を保ち続ける…ことはちょっと難しかった。
「ふんっ!」
ビュゴォッ!!
ヂィッ!!
「っぶねぇっ」
央力の猛攻はデータ以上の素早さと正確さを併せ持ち、だんだん攻撃が俺の防御をくぐり抜けるようになって来た。今も、すんでのところでかわしたと思った央力の拳は、俺の頰をヂリッとかすめやがった。このまま防戦を徹底していは央力にダメージを負わせられないままやられてしまう。
まだ慣れていない力を振るうのは忍びないが、此処は…
ビュバッ!!
「っと…ふん、そうこなくっちゃあな」
一点攻勢してみるか、と拳で反撃に出るしかないようだ。
「速い…コイツは中々強いな」
「ほう…自分の力に驚いてんのか。そんな暇があるといいなっ!」
「っ!! やるっきゃねぇか…っ!」
ドガァンッ!! ドガガガガガガガガガガッ!!
自分の力に驚く間も無く、央力は御構い無しに襲いかかる。俺は何千何万にも及ぶ猛攻を前に全力で迎え撃った。攻めの手が入ったことにより相手の攻撃を何度も喰らいまくったが、その度に情報を更新し同じ力で殴り返した。
(つっ…強いっ!! 央力っ…こんな力のデータなんか無かったぞっ!! 随時情報を更新して対抗策を打ち出さないとヤベェ…ッ!!)
(何だロボ…ッ!! 戦いながら強くなってやがるっ!! 俺の攻撃の手を覚えて、的確に返しやがる…っ!!)
攻撃を喰らってはその手を見抜き、次に来る時は完璧に対応する。
それを防がんと更なる手を常に作り出し、ひたすら最善手を打ち続ける。
もしも俺のキャパがオーバーするか、ボディの耐久が持たず央力の拳が俺を貫けば央力の勝ち。
だがお前が最善手を打ち尽くす、その瞬間を迎えた時には俺の勝ちだ。
「うおおおおおおおおおおっ!!」
「がああああああああああっ!!」
ズガッ!!
ドギャッ!!
ドドドドドドドドドドッ!!
俺達の激闘は数え切れ抜ぬほどの攻防を繰り返し、互いの武器に付着する真紅の血とオイルだけがその全てを語っていた。俺の腕と脚は央力の血で真っ赤に染まり、殴られた衝撃で漏れた潤滑油やエネルギーが冷却水に混じって顔に貼りつく。しかし央力も俺が殴ったところからも口からも血が滴り、俺の返り血ならぬ返り油を全身に浴びている。
「っ、はぁっ! はぁっ! やるじゃねぇかっ! あの馬鹿より強そうだ」
「そいつはどうも…だがそろそろ終わりにしねぇとな」
俺達はお互い満身創痍で互いを見据えながら、決着の時を予感する。特に自己修復機能の無い俺なんかはダメージを喰らったら戦闘中はずっとそのまんまだ。戦いながら回復出来る穏雅と央力が羨ましい。主要電源はとっくにサブバッテリーに切り替わってるし、システムをグリーンからレッドにまで落ちている。故障箇所も多過ぎてメインコンピューターもセキュリティも処理し切れていない。
(サブバッテリー…残り、4%…か不吉な数だぜ…)
「終わりだと、まだまだやるだろ?」
「だといいな…」
もう立っているだけで俺は精一杯だ、まだピンピンしてる央力が羨ましい。というか『Code name "GOLD"』、の力をずっと保てている俺もどうかしていると思う。
ダンッ!!
央力が拳を握りしめて走り出す。そして俺にはもう時間が無い。バッテリーもあと少しで底を尽きる。そういえば動けない兵器など、地に落ちた飛行ロボットなど、ただのガラクタ同然だとどこぞの誰かさんが言っていたことを何故か思い出す。しかしそれも朦朧とする意識の前にすぐに掻き消される。最早立っていることすらままならなくなる。
そんな、今の俺にあるのは…
ドンッッッッッッッ!!!
ピー…
ガシャアッ!!
ドザザザザザッ!!
「ぐはっ…ぐふっ…」
それは一瞬の出来事だった。
央力の拳がロボを殴ろうと伸びた瞬間、満身創痍のロボが反射的かつ全身全霊の一撃が央力の顔面を捉えたのだ。
まさにフルカウンター、しかも突っ込んで来た央力の速度も乗算されることで恐ろしいほどの威力を生み出した。殴り返された央力は砂煙を上げながら地面を転がっていく。そしてあまりの威力を前に央力の意識はコンマ数秒ほど飛び、そのまま倒れ伏せたままとなった。
「…くっ! まずいっ!」
しかしそこは地獄の3匹の鬼と謳われる実力者、すぐに立ち上がると迎撃の構えを取る。だがこの時点で央力はすでに敗北を悟っていた。戦闘においてコンマ数秒意識が飛ぶということがどれだけ命取りなことか、ましてや相手はこちらの同等の力の持ち主だ。地面に馬鹿みたいに寝ていたら、その隙を狙われて即首を飛ばされて終わりだ。
だが央力の予感とは裏腹に、ロボの迎撃はいつまで経っても来なかった。
「…?」
央力は首を傾げつつも変身は解かず、そろそろとロボの元に近づく。そこには、
プシュー……
「……」
「…おい、何寝てんだよ…」
目を閉じ、身体中から煙を上げながら地面に倒れ伏せるロボの姿があった。ロボの変身及びシステムは解け、死んだように眠っている。
「起きろっ…続きだ…っ!」
「……」
返事はない。
「貴様ッ…とっとと目を覚ませってんだ!!」
「……」
返事はない。目も開けない。
「まだ終わりじゃねぇだろっ!! おいっ!!」
返事はない。目も開けない。地震のごとく体を揺すっても、どれほどでかい音を耳に入れても、牙を突き立てて噛み付いても、ガンガン足で蹴っ飛ばしても、ロボが目を開けることは決して無かった。
「……っ!! くそっ、くそっ、くそっ!! くっそぉおおおおおっ!!」
次第に央力の顔は激しい怒りと深い絶望に覆われ、メキメキと爪をその顔に突き刺してズタズタに掻き裂いた。
ブチブギブチブヂブチヂヂヂヂヂッ!
ガジュッ! ベリッ! グジャグジャッ!バリリィッ!
ボダッ…ボダダッ!
爪も指も何もかも真っ赤に染まろうと、央力は顔を引き裂き続けた。生き甲斐を失い、存在意義を無くし、唯一代わりとなりそうなことも夢幻と消えた。力だけ付けて何も叶わない、何もない、何も何も、何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も……
バガァンッ!!
「がぁあああああアアアアああアアアヴアアアアアっッッッッッッっっっ!! アアアあアアあああヴぅああアアアあアアアああゔアアアッッっッッッッ!! あアアアあああアアアッッッっッッっっっッっっ!!!」
その瞬間、央力の中で大切な何かが切れた。央力はとっくに『黄金の戦士』が解けたにも関わらず口を裂かんばかりに開けると、咆哮を上げてむやみやたらに暴れ出した。その咆哮はまさに世界全ての絶望を含んでいるかのごとく悲痛なもので、血に覆われた隙間からわずかに覗かせる顔は漆黒の闇に覆われている。
憎き仇を殺しきることも出来ず、敗北を覚悟した相手は勝ち逃げするように死んだ。もう、央力の前には虚無しか無かった。欲していたものは全て目の前から去ったまま、二度と帰らない。
その心に溜まるのは何よりも深く、淀みに淀った全てを埋め尽くさんばかりの闇だろうか。
次回の投稿もお楽しみに




