地獄の3匹の鬼
おまたせしました
「なんじゃこりゃ」
包みを開けて出て来たのは手を形どったどデカイ武器…いや、武器と名の付いた何かだった。
「これが俺っちの最高傑作。その名も、『豪華乱刀・鬼掌華威盛』立派なもんだろ」
「いやっ…これ、武器なんですか? いや、そもそもこれ使う死神なんているんですか?」
それは指の部分が全て刃物で構成されていて手の甲にもいくつか隠し刃が入っているという特注品だ。なんでこんなもん作ったんだって聞いたら、気の赴くまま強そうな武器を作っただけだと言う。
「とにかく使ってみてくれよ、君が3匹の鬼の1匹だと言うならさ」
店員の鬼は作り笑いを浮かべながら催促する。恐らく腕にはめるようにして使う武器だろうが、果たしてこんなのが使い物になるのだろうか? まぁ、鎌を直してくれるよう頼んだ身でもあるから断るのも何だし、とりあえず触るだけやってみよう、と俺はそれに左腕を入れて付けてみる。
(こんなガキが『鬼掌華威盛』を持てるはずがない。あの3匹の鬼だなんて冗談言っちゃって…)
ひょいっ
「……っ!?」
ガギギギッ
「あっ、なるほど。指のとこ動かせるんだ」
中に手を入れるとそこに5つの指を入れる輪っかがあり、その部分に指をかけると動きに連動して刃物で構成された部分が同じように動かせるのだ。今日使っていた鎌と比べたらめちゃくちゃ重いけど、動かすには全く問題無いだろう。にしてもこんなデカイもん本当に使い物になるんだろうか。
「これ使える死神いるんですか? 重さからして並の死神が持てるとは思えないんですけど…」
俺は店員の鬼の方を見てその武器を掲げながら振り返る。すると店員は目も口も見開きながらこちらを見ていた。
「おっ、お前ぇ…それが持てんのか?」
「そりゃまぁ、こうして持ってますし。つか質問を質問で返さないで欲し…」
「お前…まさか、本当に…」
「とにかく俺の質問に答えてくださいよ」
早速俺はその武器をぐいっと使って脅すように尋ねる。なるほど、見掛け倒しには十分な威力のようだ。俺の脅しに店員の鬼はふるふる震えながら、やっと口から俺の質問への答えを出した。
「あ、その武器ですけど。まぁ、並の死神が持てるはずが無いですよね。ノリで作ったものですし。ですからもし店を畳む時が来たら、地獄の3匹の鬼が使ってくれたらなぁって思ってました、ハイ」
「まー、そうだよな。でも3匹の鬼も使わんと思うぞ、多分」
「えっ…」
実際その1匹である俺もこれを使いたいとは思わないし、ロボはこんな重厚なものはどちらかというと大砲の方に目が行くだろうし、央力だったら絶対に武器には頼らず拳で勝負するに決まってる。何せ100年もの腐れ縁で繋がってんだから。
「『最高で最鋼』のやつなら、『面白い武器だが、もっと小さければなぁ。こんなにデカイんなら大砲寄越せ』って言うだろうなぁ。んで、『最狂で最凶』の鬼は、『こんなものじゃ俺は倒せねぇだろ、そんなもん俺はいらねぇ』って感じだな」
「そ、そんな…」
「んで、『最恐で最煌』の怪物は…」
俺だったらこの武器が目の前にボンッと現れたら何て言ってやろうか、とちょっと悪巧みしながら話した。
「『たくっ、こんなデカイだけの武器でどうしろってんだ。こんなんせいぜい見掛け倒ししか使い道が分からんぞ』って言いそうだな。ソイツが1番性格最悪なやつだし」
高らかに俺はそう言ってやった。店員の鬼は意気消沈してショボーンと凹んでしまっている。少しかわいそうな気もするけど、最後にはこんなデカイだけの武器を俺らに押し付けようとしていたのだから、これで良かったのかもしれない。まったく、死神の鎌を作ってるのなら普通のものに専念して欲しいぜ。
「とにかく鎌を直してくれたら連絡下さい。それまで代用として普通の鎌貸して下さいね?」
俺は『普通の』という言葉を強調させてそう言った。しかし店員の鬼の顔色は青ざめた顔で、
「ほ、他の武器はまだ調整が出来て無くて…ここんとこずっと鎌の修復しかやってなくて…つ、使えるのがそれしかないんです…」
と絞り出す声で言った。こんな下らないものを修復が終わるまで使わなくてはならないとなると、少し腹が立って来る。
「チッ…」
俺は舌打ちして不満を露わにする。そして身体中から行き場を失った怒りを殺気に込めて表した。しかし今ここで店員に八つ当たりしては鎌の修復が遅れるから、ここはクッと抑えるしかない。
「まぁ、仕方ないので使いますよ。その代わり、ちゃんと早く鎌直してくださいね」
そう釘を刺してから俺はデカイだけのそれを持って帰ろうと脚を家の方に向けた。しかし後ろから店員が俺を引き止めて、モゴモゴと言いたそうにしている。そういえば俺の質問に重ねてこの鬼も何か聞きたそうだったことを思い出した。俺ははぁっとため息をついてからくるっと180度振り向くと、
「質問があるなら聞けばいいじゃねぇか。それともアレか? 地獄の3匹の鬼の1匹ってのは話しかけ辛いものなのか?」
と尋ねた。するとその店員はもごもごと口を開いて聞いて来た。
「お前さん、まさか本物の…」
「そうだよ、俺が噂の地獄の3匹の鬼の1匹。お前らが『最恐で最煌の鬼』って呼んでるやつだろうぜ、きっと」
「…っ! な、なんと…」
店員の鬼はガクガク膝を笑わせながらその場にヘタレ込んだ。いったいどんな悪名や恐怖が地獄に轟いているのだ、と我ながらがっかりする。彼らのような鬼から見て桁違いな存在の俺らこそ、鬼をも恐れる真の鬼なのかもしれない。
「まぁ、そうビビんな。八つ当たりはするけどむやみやたらに破壊はしねぇよ、俺はな」
問いに答えた俺は今度こそ家に帰ろうとするが、またしても店員の鬼は俺を止めた。今度はいったい何だと尋ねると、
「そうか…あんたが…そうか。何ならお前さん、後生の頼みだ」
と腕を合わせ、声を震わせて言う。後生の頼みって言うもんだからよっぽどの頼みごとなのだろう。
「他の2匹の鬼を止めてくれっ。今日、あの2匹が地獄でぶつかり合ったんだ。勝負の行方は分からんが、地獄は酷い被害を被ったらしい。頼むっ! あんたなら止められるんだろ!?」
「…」
話を聞くにどうやらロボと央力が早速ぶつかり合ったらしい。酷い被害ってことは『金の瞳の戦士』で地獄の修復し切ってない傷をさらに抉ったか、それとも『黄金の戦士』と『新兵器の力』でさらに甚大な被害をもたらしたかのどちらかだろう。個人的には前者であって欲しいけど、ロボの言っていた新兵器ってのがどうも後者の可能性という不安を拭えない。
だが1つだけ言えるのは、俺がいなくても争いを収束出来る力がロボにあるってことだ。もしそれが無かったら央力は今でも暴れまくっているだろう。
俺はホッと胸を撫で下ろすと、早くロボにお疲れ様と言ってやらなければと帰路を急いだ。
「ちょ、あんたっ! ちゃんと止めてくれるんだろうな!」
「あぁっ? 俺が行く必要はねぇよ。俺が行かなくても大丈夫だ」
「ええっ!? で、でもっ!」
「大丈夫ったら大丈夫だ。強大な力を強大な力で抑えたんだから被害だって出るだろ!」
厳しいことを言ってることは分かっているが、暴れ者を抑えるにはどうしても犠牲が付きものだ。しかも相手は破壊に一切の躊躇が無いやつと来るから、俺とロボは守るのがいかに難しいか知っている。力が無くそれを止めることが出来ない以上、出来れば口出しは無用でいただきたい。
俺は哀愁を感させる目線を背中に感じながら足早に帰宅した。その途中、俺は地獄の前を通った。そこからは激闘の跡の匂いがふわりと漂い、自分の中に流れている戦闘狂の血を騒ぎ立てた。
それを抑えながら俺はロボの家までやって来る。時間的にはそろそろ帰宅している頃だろうから、インターホンを押せば多分出て来るだろう。
「ロボーッ、いるんだろー。仕事お疲れーっ」
しかし中から返事は無く、それよりか気配すら感じない。まだ帰って来ていないのか、と俺は地獄の方に目を向けると、何やら入口付近で処刑執行人達が騒ぎ立てている。何かあったのかと俺はその方に駆け寄ると、
「…っ」
「ああっ、穏雅さんっ! 大変なんだ! ロボさんがっ! ロボさんがっ!」
「一体何があったんだよ…」
そこには死んだように目を閉じ、身体中からフスフスと煙を上げながら担架に乗せられるロボの姿があった。
次回の投稿もお楽しみに




