始まりと嫉妬
おまたせしました
さて、俺こと『佐藤 央力』は早速出来立てホヤホヤの名前を見せびらかせにいく。相手はもちろん、超ムカつく顔してて憎たらしくて吐き気がしてぶん殴りたくて蹴り飛ばしたくて噛み付いて引き千切ってやりたくて内臓ぶちまけて真っ赤な血出させたくて白目剥かせながら抉り取り空っぽになったその場所を徹底的に広げたら中の血をベロベロ舐めた後舌引っこ抜いてそれをガムみたいに噛んだら道端の隅っこに吐き捨てて残った体はミンチにしてゴミ溜めにゴミみたいに捨てたいやつだ。
そう考えてたら早速出くわした。俺はソイツに向かって高らかに、
「もう俺はお前だの、クソ野郎じゃねえっ!! いいか、俺は『佐藤 央力』だっ!! これからはそう呼びやがれっ!! 分かったか、このクソ野郎ッ!!」
と言ってやった。さぁ、見せろ。表情を、もう俺は『製造番号04』でも『受刑者番号2C0442-16』でもない。『佐藤 央力』という名前に恐れ慄くがいい。この最高で最高な名前に…ん?
しかしクソ野郎は呆気に取られたままこちらを見ている。何故何も言わないのか、何故驚かないのか、何故この素晴らしい名前に何も思わないのこか、俺は一瞬迷ったがきっと驚き過ぎて何も言えないということに気づき、クソ野郎はちゃんと恐れ慄いると安心した。
そして喧嘩の行方はというと、間に割り込んで来た鎖臭いやつの妨害で今日も決着がつかず殺し損ねた。俺はずるずると鎖臭いやつに引きずられながら、今日も牢獄にぶち込まれる。
「くっそぉ…おい鎖臭い野郎、あのクソ野郎に言っとけ。次は必ずお前を殺すってな」
「はいはい、つかお前いつまで俺のことを鎖臭い野郎って呼ぶ気だよ。めんどくさくねぇのか」
「…ま、ちょっとめんどい。なんかいい名前があるんならそっちで呼ぶ…かもな」
「『ロボ』でいいぜ、そっちの方が短いし楽だろ。それと伝言は頼まんぜ。何度も何度も同じこと言われるこっちの身にもなってくれ」
ロボはそう言って俺を鎖に巻き付けた後、さっさと外に行ってしまった。『ロボ』か、たしかに『鎖臭いやつ』より呼ぶのが楽だ。これからはそう呼んでやろう。しかしまずは傷を癒し、そして何故今日も穏雅を殺し切れなかったのかを考えなくては。
最近は戦う時に、『構え』というものをするようになった。構えを取ることで相手の攻撃に対する防御と、こちらの攻撃の味が痺れるように鋭くなった。おかげで前よりも攻撃の手応えが前より強く感じるようになり、さらに相手の癖や攻撃が飛んで来る方向も分かるようになって来た。
しかしまだ足りない。穏雅を殺せる構えで無ければ意味が無いのだ。このもっと強くなる力だってそれ以上を手にしなければ多分ずっと俺は穏雅に勝てないのだから。
そうして俺は更なる力を欲深く求めながら、何度も何度も穏雅と殴り合った。迷って鍛えて殴り合って、また迷って鍛えて殴り合う。そんな変わらぬ日々を送っていた。
そんなある日のことだった。俺はいつものように牢獄から出て鍛えていると、ロボにばったりと出くわした。またいつものように呆られながら牢獄に戻されるのかと思いきや、何かニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべて近づいて来た。
「な、なんだよ…気味悪いな…」
「へっへっへ…なぁにそんな警戒しなさんな、心配することじゃない。むしろいいニュースだ」
「あ? なんだそりゃ、いいニュースじゃなかったらぶっとばすぞ」
「ふん、まぁ聞けよ。さっきたまたま穏雅に会ったんだがな、アイツ何してたと思う?」
ロボはなおニヤニヤしながらそう聞いて来た。んなこと言われても穏雅のすることなんか分からないし、考えたくもない。俺にとって穏雅は倒すべき敵なのだから。俺が答えを出さないでいると、ロボは聞いても頼んでもない答えを勝手に話し出した。
「穏雅のやつ、女と一緒にいやがったよ。しかもおんぶしてやんの! いやぁ、ありゃきっとラブラブコンビのだな。将来絶対くっつくぜ」
「女と…一緒に…」
男と女、雄と雌、くっつくのは交尾して子供を作るためだと教わった。そして雄と雌はその子供と一緒に『家族』というものを作るらしい。家族というのはいわば『愛』を共にする仲間、一緒にいると安心する存在だと言われた。
まさしくそれは俺が求めているものだ。『家族』、『愛』、それが俺に足りないと言われたものを埋めてくれるものだと信じて。穏雅を倒したら次はそれを求め、探すと心に決めている。『愛』とはなんなのか、『家族』はどうやって作るかまでは分からないが、どんなに深い闇の中だろうと、髪のみになってでも見つけてやる、と。
グルルルルッ….
「そうか、それはそうと、腹減ったからなんかない?」
「お前さぁ…機械は何も喰わねぇんだから持ってるわけねーだろうが。そこら辺に生えてる雑草でも喰ってろ」
「もうこの味飽きた」
「知らんしっ、つかワガママ言うんだったらお前そっこー牢獄行きだぜ。一応俺は処刑執行人でお前は受刑者、本来なら有無を言わせず叩き潰してるとこだ。分かったらとっとと戻るっ」
俺はふんっと返事をしてからそこら辺に生えてる雑草をむしって口に放り込んだ。長い間ずっと食べて来たからもうこの味にも飽きて来た。久々に甘いものが食べたいと思いつつ、俺はのそのそとロボと共に牢獄へと戻る。
しかし穏雅に女とは少し羨ましい。『家族』を作れるという事実がただただ妬ましい。にしてもその女、どんなやつか顔も知らないがあのクソ野郎とくっつくとは。きっと相当変なやつに違いない。というか雄と雌が一緒にいたらそのうち子供でも作るんじゃないか。
「穏雅と女との子供……へぁああっ」
なんて嫌なものを想像してしまったのだと俺は激しく嗚咽した。気持ち悪いイメージが頭に強く焼き付いて、どれだけ激しく振っても離れない。最悪だ、なんてものを俺は考えてしまったのだと、その日は深く後悔した。
それからしばらく経ったある日のこと、俺の頭からやっと気持ち悪いイメージが消えかかっていた時、遠い場所で爆発的で巨大な力が立ち昇っていくのを感じた。俺やロボなどを完全に置き去りに出来るほどの強大な力がヒシヒシと地肌に伝わって来た。そしてそれだけの力を出しているやつも、直感的に分かってしまった。
しかし俺は信じたくは無かった。その力の持ち主がアイツでないことを祈りながら、俺はいつものように脱獄した。そしていつものようにロボかアイツの気配を探り、その場所へと走っていく。すると今回は2人が一緒にいたから俺は気配を消して物陰に隠れながら俺はそっと2人の様子を伺った。
そして俺の淡い期待は、粉微塵に打ち砕かれた。他でもない、黄金に輝く戦士によって。
それから俺はたゆまぬ修行を積んだつもりだった。これなら強くなれるだろうと一心に信じながら、徹底的に自分を追い詰めた。
だがどこか心の底で諦めていた、あの黄金に輝く戦士を超えることは出来ないと。これからどれほど俺が努力を積もうと、永遠に決して超えられぬ力だと。
悔しかった、ただひたすら悔しかった。どれほど努力しようと超えられぬ壁なのだと認めざるを得ないことに、自分の限界はたったこれだけだと思い知らされたことに、偽物は本物を決して超えられないという事実に。
そして何よりも、その限界を超えられぬ自分自身に。
それを悟った時にはもう、俺は1人牢獄の中でうずくまっていた。穏雅に挑むことも、今まで積んで来た努力も、家族を手に入れることすら何もかも諦めて、ただただ弱い自分に絶望していた。それに怒りを覚え過ぎて、最早今自分がどんな感情をしているのかさえ分からなかった。
その時だった、俺は自分の中から凄まじい力の目覚めを感じた。いったいどこから湧いて来るのか分からないが、それがひたすらに心地良く、先ほどまでの深い絶望を次々に打ち払っていくようだった。
俺は今新たな力に喜んでいるのか、それとも驚いているのか、はたまた安堵しているのか分からなかった。
ただ唯一言えるとしたら、俺はまだまだ強くなれる。穏雅が強くなるのなら、俺だってその分強くなる。そして必ず、新しく目覚めたこの力で穏雅を倒してみせる。
ボロッ…
…のはずだったのに、今回も勝てなかった。やはり穏雅を倒すにはこの力でもダメなのか。だったら俺はいらない。こんな力など、弱い力など、俺は欲しくない。
俺は、アイツを倒せる力が欲しいんだ。
「……『始まり』ですね」
「…っ!?」
そう願った瞬間、背後から何者かの声が聞こえて来た。俺はハッと背後を振り返るがそこには壁と鎖しか無いし、そもそもここには誰も来ないはずだ。俺はキョロキョロと辺りを見回すが、辺りは闇ばかりだし人の気配などまるで感じない。
「……?」
今一度辺りを見回し、耳をすませるがシンと静まり返り過ぎて逆に耳が痛くなる。匂いも気配もしないから恐らく幻聴だろうと決めつけ、俺はふぅと一息置いて呼吸を落ち着かせる。そしてもう一度あの力の感覚を思い出しながら、今度はもっと上手く使ってみようといつものように牢獄で1人、作戦を練り出した。
次回の投稿もお楽しみに




